むかしむかし、あるところに、実子(じっし)と継子(ままこ)の姉妹がいました。
実子の方は毎日きれいな着物を着て遊んでばかりいますが、でも継子の方はろくにご飯を食べさせてもらえず、ボロボロの汚い着物で毎日仕事ばかりさせられていました。
ある冬の、寒い日の事です。
継子は川で、ダイコンを洗っていました。
川の水は冷たくて、手がジンジンとハリを突き刺すような痛さです。
その時、川の横をお殿さまの一行が通りかかって、お殿さまが継子に声をかけました。
「おお、娘。
この寒いのに、よくがんばっておるのう。
今日は、庄屋(しょうや)の家に村の者をよんで歌会(うたかい)をするが、お前も来てはどうじゃ?」
「えっ? わたしが歌会に?」
継子は、こまってしまいました。
実子はともかく、継子は仕事がいそがしくて歌などよんだ事がないのです。
「なに、そう難しいものではない。感じた事を、そのまま言葉にすればよいのじゃ」
お殿さまにそう言われて、継子はしかたなく庄屋の家に行きました。
さて、いよいよ歌よみがはじまりました。
大きな盤(ばん)の上に置いた皿の中にたくさんの塩がもってあり、その中に松をうえた物を題にして歌をよむことになりました。
一番最初に、実子が歌をよむことになりました。
実子は自信満々に、こんな歌をよみました。
♪盤の上に皿がある
♪皿の上に塩がある
♪塩の上に松がある
つまらない歌なので、お殿さまは気にもとめませんでした。
しばらくして、継子が歌をよむ番になりました。
継子は塩の中にうえられた松を見つめると、お殿さまに言われたように、感じたことを言葉にしました。
♪ばんさらや
♪やさらの上に雪降って
♪雪を根として育つ松かや
それを聞いたお殿さまは、思わず声を上げました。
「うむ、見事じゃ。きびしい寒さに負けじとがんばる、松の力強さが伝わってくるわ」
お殿さまはその歌が大変気に入って、継子をお城へ連れて帰ると歌よみの勉強をさせました。
その後、継子は出世して、幸せに暮らしたという事です。