むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
ある日のこと、彦一は肥後(ひご→くまもとけん)の国ざかいの川へ、ウナギつりに出かけました。
けれどこの日はどうしたことか、ウナギがさっぱりつれません。
つれる場所を探して川の上流へ上流へとのぼって行くと、いつの間にか隣の国の領地(りょうち)に入ってしまいました。
「まあ、誰にも見つからないだろう」
彦一がつりを始めると、今度はおもしろいようにウナギがつれます。
するとそこに隣の領地のさむらいがウナギつりにやって来て、彦一を見つけました。
「やい、やい、彦一。ここは、わしの殿さまの領地の川じゃ。お前がつったウナギを残らずよこせ」
ところが彦一は、少しもあわてません。
「おらは、八代(やつしろ)の川を大きなウナギが何百匹ものぼるのを見て、それをつりに来たまでじゃ。八代のおれが八代のウナギをとって、どこが悪い」
「ふむ、それはそうだが、八代のウナギとわしの領地のウナギとを、どうして見分ける事が出来るんだ。へりくつをぬかすな」
「いいや、見分けるなど、わけもない」
彦一は大きなウナギをつりあげると、
「これは、八代からのぼってきたやつ」
と、自分のビク(→さかなを入れるカゴ)に入れ、小さいのがかかると、
「これは、そちらのウナギ」
と、さむらいのビクにポイと投げ入れました。
そうして彦一は、大きいウナギだけを持って帰りました。