むかしむかし、山と海にはさまれた、小さな村がありました。
村人は山の木を切ってまきを作ると、船で遠く那覇(なは)の町まで売りに行って暮らしていました。
この村には、貧乏ですが名医と評判のお医者さんがいます。
ある夕暮れ、お医者さんのところへ一人の娘がたずねてきました。
お医者さんは一目で娘が何かの化け物だと見破りましたが、何も言わずに娘が痛いとうったえる耳をみてあげました。
「耳の奥が痛いのか。どれどれ・・・、!!!」
なんと娘の耳の中で、一匹のムカデが暴れていたのです。
「これは、大変だ! ・・・だがその前に、あんたの正体を現しなさい!」
娘はコクリとうなずいたかと思うと、口から白い霧(きり)を吹き出して一匹の竜(りゅう)になりました。
そして目に涙をいっぱいためて、お医者さんを見つめています。
「よしよし。ではすぐに、楽にしてあげよう」
お医者さんはそう言いながら、竜の耳の中にニワトリを入れてやりました。
さあ、それから竜の耳の中で、ムカデとニワトリのたたかいがはじまりました。
「動くでないぞ。じきに、ニワトリがムカデを退治してくれるからな」
「・・・・・・」
竜は小さくうなづくと、ムカデとニワトリが耳の中で大暴れするのをじっとガマンしました。
それから間もなく、竜の耳からニワトリがムカデをくわえて出てきました。
「よし、これで大丈夫だ」
すっかり元気を取り戻した竜は、お医者さんに竜胆(りゅうたん→リンドウの根を乾燥した胃薬)と呼ばれる薬を差し出すと、ムカデを退治してくれたニワトリに何度も頭を下げて天に昇りました。
それからというもの、竜は天から地上へ大雨を降らせていても、そこにニワトリの姿を見つけるとニワトリにケガをさせてはいけないと思うのか、すぐに雨をやませたという事です。