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一級短文読解(121)
日期:2016-12-06 10:36  点击:3722
時々、散歩の迷宮にはまる。
時に散歩をしようという意識もなく、スポーツ新聞や電球を買いに外へ出る。一つ目の角を左に曲がれば、新聞配送やコンビニエンスストァはすぐそこにあるのに、なんとなく右に曲がってしまう。そこが迷宮の入り口だ。次から次へとやってくる曲がり角を、その日の気分で右に行ったり左に行ったりする。畑の脇道を通る時は、人目を気にしながら鼻歌を歌うこともある。
天気のいい日は、見たことのない風景がみたいという欲望が芽生えてきて、通常とは逆へ歩いていく。家の近所の高層マンションを目印に方角を目算していたのに、ふと空を見上げればそのマンションは影もかたちもなくなっていることに気づき、突然不安になる。
言葉の通じる国なのだからそれほどパニックには陥らないが、バスに乗るのは癪だ。
散歩に敗北したという感じがする。どうしても歩いて帰りたい。よれよれになって家へたどりつく。ドアを開けた瞬間、思い出す。今日も、スポーツ新聞を買い忘れた。
 不思議なことに、今朝外に出た目的が何だったかを、ドアを開けるまではなぜか絶対に思い出さない。いつでもドアを開けた瞬間に気づく。まるで、ドアが迷宮と現実の境界のような感じだ。何かを忘れているという感覚は、散歩の間じゅうずっとつきまとっている。しかし歩いているうちに何を忘れているのかを忘れ、何を忘れたのかを忘れたことも忘れてしまう。
こうして、新聞を買うつもりでねぎを手に帰り、郵便局にいくつもりがポストチップを手に帰ってくる。どうしょうもない生活だ。
そんなことをしていられるのも、ひとり暮らしの気楽さだ。同居人がいたら、「新聞買ってくる」といって家を出た人間が半日も戻らなかったら、神隠しにでも遭ったのではないかと心配してしまうだろう。実際私は実家へ帰ったがどうしても寝つけず、早朝散歩に出たくなった。両親はまだ眠っている。夜にはふとんの中にいたはずの娘が忽然と姿を消したら、捜索願でも出されかねない。無断外出はまずいと思い、こんな書き置きを残していく羽目になった。
「眠れません→散歩に行きます→そのあとファミレスで休憩します→数時間戻りません」
ふう。人と暮らすのは気を遣う。ひとり暮らしとは、好きな時にすきなだけ散歩をする権利、なのかもしれない。
私はいま、ゆっくりと道を歩いているだけで、ちょっとした自由を感じる。それは、言論の自由や政治的自由や思想的自由と比べたら、とるに足りらないものかもしれない。でも私にとっては、手放したくない自由だ。とても大切な、自由だ。
(星野博美『迷子の自由』による)
 
14.①「不安になる」のはなぜか。
1 迷子になりそうだから
2 家族のことを心配しているから
3 暗くなってきて、高層マンションが見えなくなるから
4 その辺りに人影はいなくなったから
 
15.②「散歩に敗北した」とはどういう意味か。
1 散歩に疲れて、こりごりだ。
2 散歩に出かけたことを後悔した。
3 散歩に出かける勇気がなくなった。
4 散歩に出かけたのに、歩いて帰れないのが悔しい。
 
16.③「歩いているうちに何を忘れているのかを忘れ、何を忘れたのかを忘れたことも忘れてしまう」とあるが、その意味として、正しいのは何か。
1 歩いているうちに、出かけた目的や気がかりなことをすべて忘れ、自由自在になっている。
2 歩いているうちに、何か買わなければならないものがあるのを忘れ、そしてそのものの重要性も忘れている。
3 歩いているうちに、自分は何かをすべきだということを忘れ、そしてその自分をも忘れている。
4 歩いているうちに、家族のことをすべて忘れ、自分がなぜ出かけてきたのか忘れている。
 
17.④「どうしようもない生活」とあるが、ここに筆者のどんな気持ちが込められているか。
1 気ままな生活を満喫している気持ち
2 自分の忘れっぽい性格に情けない気持ち
3 自分の目的はずれの行動を恥ずかしく思う気持ち
4 自分がやった馬鹿らしいことにあきれている気持ち

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