むかしむかし、尼さん(あまさん→仏の道に仕える女の人)が旅をしていると、途中で日が暮れてしまいました。
そこで尼さんは近くにある家をたずねて、一晩泊めてもらう事にしました。
「さあ、どうぞ。大した物はありませんが、ゆっくり休んで下さいな」
家の夫婦は温かい晩ご飯を作って、尼さんをもてなしてくれました。
その夜遅く、尼さんがふと目を覚ますと、夫婦が小声でヒソヒソ話しをしていたのです。
「明日は、どうしますか?」
「そうだな、はんごろしにするか?」
「いいえ、はんごろしよりも、みなごろしの方がよいのでは」
「そうだなあ、やっぱりみなごろしの方がよさそうじゃ」
「ええ、みなごろしにしましょう」
このやりとりを聞いた尼さんは、びっくりです。
「半殺しに、皆殺し! ここに寝ていては、殺されてしまう」
尼さんは荷物をまとめると、夜中にこっそりと逃げ出しました。
次の朝、夫婦は尼さんがいない事に気がついてがっかりしました。
「あーあ、せっかくおいしいみなごろしを作ろうと思っていたのに」
「ほんとうにね」
尼さんは知りませんでしたが、この地方ではぼたもちの事を 『はんごろし』とよぶのです。
そして、よくついたもちの事を 『みなごろし』とよぶのです。
勘違いをした尼さんは、せっかくのおもちを食べる事が出来ませんでした。