むかしむかし、あるところに、腕の良い染め物屋がいました。
この染め物屋は、お城からも染め物の仕事が来るほどの評判でしたが、この染物屋の息子がどうしようもない道楽息子で、仕事の手伝いもせずにいつもふらふらと遊び歩いていたのです。
ある日の事、お城からの使いが、上等な白絹(しろぎぬ)を持って来て言いました。
「急な頼みですまないが、殿さまが江戸へのぼる事になったので、十日後にはこれを紋服(もんぷく)に染め上げてくれ」
「へへーっ。必ず十日後には、染め上げますので」
こうして染め物屋の主人は、さっそくその白絹に下地を練り込み、ていねいに乾かしていました。
するとそこへ、酔っぱらった道楽息子が帰ってきたのです。
「なんだ、親父。
また、仕事をしているのか?
染め物なんて、川に入って冷たい思いをして、また乾かして冷たい思いをする。
そんな事を、毎日繰り返してどうするんだ?
それよりも、おれみたいにバクチでもすればいいんだ。
そうすれば金なんて、いくらでも手に入るのによ」
「しかし息子よ、働くというのは・・・」
「うるせえ! おれに説教をするな!」
そう言って道楽息子は、なんと殿さまの白絹に泥を塗りつけてしまったのです。
「ああっ! お前は、何て事を!」
染物屋の主人はあわてて白絹を洗い直すと、再び下地を練り込んでていねいに乾かそうとしたのですが、その日から毎日雨が続いたために、約束の日までに白絹を染めることが出来なかったのです。
やがて、お城からの使いが染めた白絹を取りに来たのですが、白絹が染め上がっていない事を知った殿さまは大変怒って、
「このふらち者を、討ち首にせい!」
と、染物屋の主人を殺してしまったのです。
これを知った道楽息子は、父親の死骸(しがい)に取りすがって泣きました。
「すまねえ、親父。おれが、馬鹿だった」
そしてこのうわさを知った近所の子どもたちに、道楽息子は寄ってたかって石を投げつけられたり、棒で叩かれたりしたのです。
道楽息子は、くやんでくやんで、とうとうフクロウになってしまいました。
そして人目につく昼間は林の中に隠れて、夜も暗くなってから出歩くようになったのです。
そして道楽息子をいじめていた子どもたちは、カラスになりました。
こうして今でも、カラスは昼間にフクロウを見つけると、寄ってたかってフクロウをいじめるのだそうです。