むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
以前、吉四六さんはキジを売っていると勘違いさせて、カラスを売りつけて大もうけした事がありますが(→おとりのキジ)、これはそれからしばらくたったある日のお話しです。
今度は吉四六さん、町にすす竹を売りにやって来ました。
「ささや~ぁ、すす竹~ぇ」
吉四六さんが声を張り上げて町の中を歩いていると、その姿を見た一人の商人が隣の店に飛び込みました。
「河内屋(かわちや)さん! ちょっと、ちょっと」
「これはこれは、虎屋(とらや)さん。どうしました?」
「ほれ、いつか。
かごの上にキジを乗せて安い値で『カラス、カラス』と言って売りに来た男がいましたね。
それを見て『きっと、カラスとキジの見分けがつかない田舎者だ』と思って、『カラスをくれ』と言うと、中から本物のカラスを取り出して売りつけたではありませんか」
「ああ、ありました。覚えていますよ」
「そう、その男が今、すす竹売りに来たんですよ。
どうです?
あの時の腹いせに、うーんと油をしぼってやろうじゃありませんか」
そう言って虎屋と呼ばれた男は、河内屋にある作戦をささやきました。
「なるほど、これはおもしろい」
「でしょう。そら、やって来ましたよ。・・・おい、すす竹売り!」
虎屋が吉四六さんに、声をかけました。
すると吉四六さんは、すぐにやって来て、
「へい、ありがとうございます」
と、頭を下げました。
「ささを、一本くれないか。いくらだ?」
「はい。十文でございます」
「それ十文だ。とっときな」
「はい、ありがとうございます」
「おい、おれには、すす竹一本くれ」
今度は、河内屋が声をかけました。
「はい、ただいま」
吉四六さんが何気なくすす竹を一本渡すと、河内屋はいきなり怒り出しました。
「おいこら! これは虎屋に売ったのと同じではないか! 虎屋は『ささ』で、おれは『すす竹』と言ったんだ!」
虎屋も、吉四六さんに詰め寄りました。
「そうだ! 『ささや、すす竹』と言うからには、違う物でなければならん。
見れば、みんな同じ物だ。
お前はかたり(→人をだまして、お金を取ること)だ!
ふといやろうだ!」
全くのいちゃもんですが、でも吉四六さんは平気な顔で言いました。
「これはこれは、誰かと思ったら、虎屋の旦那で」
「うん、いかにもおれは虎屋だ」
「お名前は、権兵衛さんで?」
「ああ、権兵衛だが、それがどうかしたか?」
「ヘヘへ、そちらさまは、河内屋の久六(きゅうろく)さんで?」
「そうだ。河内屋が屋号(やごう)で、名が久六だ。さあそれよりも早く、ささでないすす竹を寄こせっ!」
すると吉四六さんは、腹をかかえて笑い出しました。
「な、なにを笑う!」
「いや、実はわたしの売っている竹は、屋号が笹屋で、名前がすす竹と申すのです。
屋号で呼んでも名前で呼んでも、物はどちらも同じ物ですよ」
それを聞いた二人の商人は、
「ちくしょう、またやられたわ!」
と、言って、おとなしく店の中に帰って行きました。