むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもとんちの出来る人がいました。
ある日の事、お寺参りに来た二人の男が、釣り鐘の下で大声で言い合いをしていました。
「おれはこの寺の鐘を、むかしから見て知っとるが、ぶらりと下がっとる。間違いはねえ!」
「いや違う。この鐘は、下がってぶらりとしとるんじゃ!」
「いや、ぶらりと下がっとる!」
「いや違う。下がってぶらりじゃ!」
どっちも負けずに言い合って、一歩もゆずりません。
そこで二人は一両のお金をかけて、通りかかった人にどっちが正しいかを判断してもらおうという事にしました。
さあ、そこへちょうどやって来たのが、吉四六さんです。
「さあ、吉四六さん。どっちが正しいか、決めてくれ」
二人の言い分を聞くと、吉四六さんは、
「まずは、一両ずつ預かりましょう」
と、言って二人からお金を受け取ると、吉四六さんはわざと難しい顔で、
「うーん。ぶらりと下がると、下がってぶらりか。・・・はて、どっちかのう?」
と、言いながら、釣り鐘の回りを、ぐるぐると見て回りました。
「吉四六さん、早く決めてくれ」
二人が詰め寄ると、吉四六さんはまじめな顔をして言いました。
「そうだ!
この鐘は、中ぶらりんじゃ。
『ぶらりと下がる』でも『下がってぶらり』でもなく、『中ぶらりん』じゃ。
だから、どっちが勝ちでもない。
・・・しかし、お金の中ぶらりんは困るだろうから、これはおらがもらっておこう。
では、さいなら」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
あっけにとられている二人を残して、吉四六さんは二両のお金をふところにしまうと、さっさと帰ってしまいました。