むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもとんちの出来る人がいました。
ある年のお正月の事です。
吉四六さんは村人たちと一緒に、山ヘたきぎを取りに行きました。
その山には、しいの木(→ブナ科の常緑高木)がたくさん生えています。
村人たちは、せっせと木の枝を落とし、それを束ねてたきぎを作っていきました。
ところが吉四六さんは大きな木の根っこに腰をかけて、のんびりとタバコをふかしています。
また、何かとんちを考えているのでしょうか?
そのうちに、村人たちはたくさんたきぎを取ったので、
「さあ、そろそろ帰ろうか?」
「そうだな。これくらいあればいいだろう」
と、取ったたきぎを背中に背負って、帰ろうとしました。
それを見ていた吉四六さんが、村人たちに声をかけました。
「おいおい、お前さんたち。そんな物を、かついで帰る気かい?」
すると村人たちは、おどろいて尋ねました。
「えっ? そんな物って、どういう事だ?」
「だって、そのたきぎは、しいの木ばかりじゃないか」
「そうだよ。それがいけないのか?」
村人は、不思議そうに尋ねました。
すると吉四六さんは、こう言いました。
「いけないのなんのって、しいの木は『かなしい』と言って、とても縁起の悪い木だ。
おまけに今は、お正月じゃないか。
こんなめでたい時に、何だって『かなしい』木をたくさん家へ持って帰るんだろうね」
それを聞いた村人たちは、顔を見合わせると、
「へえ、それは知らなかった。
なるほど、確かにめでたいお正月に『かなしい』木なんぞ持って帰ったら、女房や子どもが可愛そうだな」
と、せっかく集めたたきぎをそこらへ放り出して、また別の木を切り始めました。
「へっへっへ。しめしめ」
吉四六さんは、みんなが放り出したたきぎを集めて山ほど背中に背負うと、
「それじゃ、みなさん。お先に帰らしてもらいますよ」
と、一人でさっさと帰ろうとしました。
村人たちは、びっくりして、
「おいおい、吉四六さん。お前、そのしいの木のたきぎは『かなしい』と言って、とても縁起が悪いって言ったじゃないか」
「そうだよ。そんな物をかついで、どうするつもりだ?」
と、口々に言いました。
すると吉四六さんは、すました顔で言いました。
「いやいや、このしいの木は、『うれしい』と言ってな、とても縁起が良い物なんだ。
まして今は、お正月じゃないか。
こんな縁起の良い事があるもんか」
それを聞いた村人たちは、
「しまった。またしても、吉四六さんにやられたわ」
と、くやしがったそうです。