むかしむかし、吉四六さんと言う、とてもゆかいな人がいました。
ある時、吉四六さんは大勢の百姓たちと一緒に米を馬に積んで、年貢を納める為に役人の所へ向かいました。
この日はとても暑い日だったので、みんなへとへとです。
特に馬は重い米だわらをつけているので、可哀想なほど苦しそうです。
でももう少し行くと、小さな泉があります。
あまり水が良くないので人は飲めませんが、馬なら大丈夫です。
「もう少しだ、我慢しろよ」
みんなはそれぞれ自分の馬をいたわりながら、山道を進みました。
そしてやっとの事で、その泉に到着したのです。
「さあ、飲みな」
先頭の百姓が、馬を泉のそばに引き寄せましたが、
「あっ! ・・・なんて事だ!」
長い日照り続きだった為に泉の水が減って、もう少しの所で馬の口が水に届かないのです。
「おい、誰かおけを持っていないか?」
「・・・・・・」
しかし誰も、そんな用意はしていません。
百姓たちは代わる代わる自分の馬で試してみましたが、どの馬ももう少しのところで届きません。
「やれやれ、これは弱った」
「このまま水も飲ませずに無理をすれば、馬が倒れてしまうぞ」
みんなが困っていると、吉四六さんが言いました。
「おいみんな、ちょっと待ってろ。おれがうまく馬に水を飲ませてやるから」
そして吉四六さんは着物を脱いで、裸になりました。
「吉四六さん、もしかして掘るつもりか? いくら掘っても、これ以上は水はわかないよ」
みんなはそう言って笑いましたが、でも吉四六さんは構わずに泉の中に飛び込んで首までつかると、向う側に身を寄せました。
「うひゃーーっ、ちょっと冷たいが、こりゃいい気持ちだ。さあ、これで水かさが増したぞ。もう何人かが手伝ってくれりゃあ、馬の口が届くはずだ」
それを聞いたみんなは、ようやく吉四六さんの考えがわかりました。
「なるほど! 掘るんじゃなくて、飛び込んで水かさを増したのか。これは名案、さすがは吉四六さんだ。よし、わしらも手伝うぞ」
ほかの百姓さんたちも裸になって泉に飛び込んだお陰で、馬は無事に泉の水飲む事が出来たのです。