オレの疑惑の目をよそに、ドクターはあちこちのバケツから漢方薬をスプーンですくい、手にした皿の中でサラサラと混ぜ始めた。一応これらの漢方は、ドクターが息子さんと一緒に裏山で自ら栽培しているらしい。つまり、免許とか認可とかそういうものは一切ないということですな。つまり、これがまさに中国4000年の歴史なのですな。
皿の中で調合されたというか混ざった粉をドクターはテーブルの上でわら半紙の上にザザーっとあけた。そして、そのままわら半紙を四隅からたたんでお持ち帰り用漢方薬の出来上がりである。これ、やっぱり清潔感が全然ないんだよな……。バケツで保管されていた粉薬をわら半紙で包むというのは衛生上どうかと……食の安全が声高に叫ばれている昨今そのあたりはとても重要なことでして……
「これを1日3回、お湯で煎じて砂糖と一緒に飲みなさい」
「ありがとうございます。というかこれはなんの薬なんでしょうか。下痢と腰痛両方ともに効くんですか?」
「そうだ。両方に効くぞ」
「そもそもドクター、下痢も腰痛も結局は僕の自己申告だったような気がするんですが。そんな患者の言いなりの適当な感じで漢方薬選んじゃって大丈夫なんでしょうか……」
「バカモノ! ちゃんとわしがおまえの体を診て判断したのじゃ。言う通りにしなさい」
「いや、でもまだちょっとこれを飲むのは不安で……もしご気分を害されなければ少し待っていただいて……その間に他の病院に行ってセカンドオピニオンを……」
「わしが信用できないと言うのかっ!!!」
「はいはいそうくると思いましたよ。新聞や雑誌に登場するお医者さんは『セカンドオピニオンは患者さんの当然の権利です』みたいに言うけどさ、いざ自分の担当のドクターに言い出してみるとやっぱり機嫌が悪くなるんだもん……」
まあでも、神医がそう言うなら信用出来るのかね。なんとなく「中国の山奥で白髪の老人が作った漢方薬!」というと効きそうな気もするし。むしろ不老不死になってもさほど驚かない。だいたい、先ほど聞いてみたところこのドクターはおんとし82歳ということである。その年齢でこれだけ歩き回っているということが、かなりの説得力は持っている。自分で漢方薬飲んで長生きしているんだろうからな。ひょっとしたら既にこの人は不老不死になっているのかもしれない。もしかすると、太平天国の乱あたりにも参加したんじゃないだろうかこのおじいさん。
でも、これだけじゃちょっとなあ。なんでも、あらゆる病気を治すというふれこみだし……。ちょっとおねだりしてみようかしら。