麗江から次に目指すのは、北の都市?香格里拉である。大きな目標は四川省の成都なのだが、中国はあまりにも広すぎるため、ここから日数を重ね四つの町を経由してチンタラと成都まで移動せねばならないのだ。本来は麗江から東に向かいバスと電車を駆使してまる2日かけて成都へ向かう方法が一般的なのだが、そんな無茶な移動は体に良くない。これからは、なによりも体に優しい旅を心がけることにしたのだ。だって、もうオレ一人の体じゃないんだから。オレの中には明治時代の無垢な女学生、花言葉に詳しいストロベリーメリージェーンちゃん(18)が住んでいるのだから。なに? そんな話もう忘れた? 思い出せっっ!!! ……でも、オレ1人の体じゃないからといって、僕はまだ誰のものでもないの。みんなに権利があるの。だから安心して!
北のルートをとると毎日動いて最短でも4日はかかるが、全て日中のバスの移動のため体への負担は少ないのだ。何しろ毎日体を洗ってベッドで寝られるのである。オレって、こういうところが妙に堅実なんだよね。物事を堅実に考えていく傾向があるの。加入している保険だってアリコの「てごろでがっちり入院保険」だから。やっぱり体のことを考えるともしもの時のためにがっちりと心強い備えが重要なんだよね。ただ、保険内容はがっちりで心強くても、アリコの親会社がリーマンショックでいきなり破たんしかかるというがっちりしてない心弱い展開になって、しばらくニュースを読むたび青ざめてたけど。
それではそろそろ出発である。
麗江の「汽車站」と書いてチーチョージャン=バスターミナルの待合室でバスを待っていると、傍にいた白人の旅行者のおばさんがペラペラっと話しかけて来た。
「エクスキューズミー、ねえあなた、私8:30発のバスのチケットを持っているの。でもそこの係員にチケットを見せても、まだ乗り場に入れてくれないの。どうして? ちょっと係員に聞いてくれない?」
「ああどうもどうも。どうしてと言われても、そんなこと僕がわかるわけないでしょっ! どうしてそれを僕に聞くんですかっ!!」
「あら、あなた中国人じゃないの? じゃあもしかして中国語は喋れないの?」
「一切喋れません。だいたい、中国人とは顔が全然違うじゃないですかっ!! あなただって、僕の顔が他の人々と全然違ってインテリ風だから、英語を話せそうだと判断して話しかけたんでしょう!!」
「そうなの。インテリ風でカリスマだったから話しかけたの」
「詳しくはわからないですけど、まだ8時前だからじゃないですかね。僕が今まで他の街で乗ったバスも、30分前になるまで乗車口に入れなかったですから」
「そうなの? じゃあきっとそれね!」
「ほんじゃ人助けをして喜ばれたところで、僕のバスはそろそろ出るみたいなんで、お先に失礼します」。