……それでは、本日の一汁一切の夕げはなににいたしましょうか。決して贅沢はしません。つつましく召し上がります。
おおっ!!! これは美味そうだっ!!!
クリスプチョコレート。バヅル&マヨネーズソース○マリ。
いや、正直なところ「バヅル」が仮に「バジル」の間違いだとしても、バジル&マヨネーズソースはこの商品にかかっていないだろう。そんなものチョコレートにかけられてたまるかっ。多分その部分の表示は、これを作った中国人が日本製の他の食品についていた表示をそのままパクってつけてしまったのだと思われる。おそらく「絶品のうまさ! やめられないとまらない!」みたいな意味の表示だと思ったのだろう。
それはともかく、チョココーティングを施したクッキーに、クリスピーなナッツがたっぷりと乗せられたこの魅惑的なおやつ。……これを買わずに何を買えというんだっ!!! 一汁一菜のつつましい暮らしを送ろうとしているからといって、クリスプチョコレートを見逃すほどオレは落ちぶれちゃいないんだよっ!!! 見損なうなテメエっっ!!!
オレは喜び勇んでクリスプチョコレートと菓子パンと魚肉ソーセージとお茶を抱きかかえ、ルンルン気分でレジへ向かった。……今日だけです。今日だけおやつを食べるのです。明日からは一汁一菜、つつましく争いをせず全てのことを許す生活を送るのです。
「レジのおばさん、これくださいな」
「アイヤー。ピッ、ピッ、ピッ……、あれ? これは……あやー?」
レジ係のおばさんはセンサーでそれぞれの食料のバーコードをピッピッと読み込んで行ったのだが、なぜか肝心のクリスプチョコレートがうまく読み込めないようだ。どういうことだろう。魚肉ソーセージも菓子パンもペットボトルのお茶も、全て平らではないイヤらしい形なのにすんなり読み取れているのだ。なのにひとつだけ直方体で歪みの無いクリスプチョコレート、本来の2次元の形をきっちりと保っているバーコードが読み取れないとはおかしな話ではないか。
だが、おばさんが何度繰り返してもセンサーは反応していない。ねえ頼みますよ。そこがレジ係の腕の見せどころじゃないですか。このトラブルをどう切り抜けるかが、あなたの昇給にも大きくかかわって来るんですから。