そして1時間後……。
イスラエル3人組のごり押しと中国人小姐の奔走により、オレたち6人のツーリストはワゴンタイプのタクシーを捕まえ(本当にタクシーなのかももはや不明)荷物を詰め込み自ら乗り込み、標高4000メートル近くの落石ですぐ崩壊する山道を、南に向かって走っていた。狭い……。
「ターシーカン!」
「なんですか~」
「あなたは学生なの? それともアイドル?」
「こう見えても29歳です。無職ですが、外国に居る間は旅人だと自称して無職だというのをごまかしているんですよ」
「ターシーカン!」
「なんどすえ~」
「日本にはいつ帰るの?」
「僕には、帰るところなんてないんです。世界のどこに行ったって、僕を必要としてくれる人なんて誰もいないのだから」
「いいわその悲壮感……なんだかクラクラきちゃう……」
ウーシーさんとリンさんの小姐コンビは、オレのことをターシーカンターシーカンと呼んで来る。これはオレの本名フルネームを中国語読みすると「ターシーカン」になるためだ。かつてアラブ圏のスーダンでは電車の隣のおっさんに「ムハマド」と命名されたこともあるが、中国でのオレはターシーカンである。ルーシーリューやスージーQみたいで色っぽいではないか。ちなみに、英語圏でのオレのニックネームは「ディカプリオ」もしくは「アーノルドシュワルツェネッガー」である。
自然の要害を削って作られた恐ろしい道を走り、途中で峠の茶屋のようなところで昼食になった。中国人を見下しがちなわがままイスラエル人と小姐コンビは全然心の交流がないため、別のテーブルにつく。ここでは漢字が読めないユダヤ人は何も出来ないので、オレは彼らと一緒の席に着き、彼らのために漢字メニューを見て注文してあげるという役割を担うことになった。ちぇっ、なんでオレがいちいちキミたちを助けなきゃいけないのさ。私はあんたたちの言いなり玩具じゃないのよっ!!!
やはり「ベジタリアンだからシンプルなものを頼んでくれ」と要求が来たので、野菜といえば、麻婆ナス!! 麻婆豆腐!! そしてよくわからんけど炒生菜!!!