いいんだよ。6時間最高に辛くて必死だったけど、それはオレだけが胸の中にしまっておけばいいんだ。どうせ人間は他人の苦しみなんか感じることは出来ないんだから。
待合室の半分以上が同じ火車(ホーチョー)に乗るらしく、中国人+オレの大移動が始まった。う~んこんなにたくさんの乗客がみんな同じように6時間も待ってたのか……。中国では、昔からこんなことが当たり前だったんだな。これだけ大勢の人がしょっちゅう退屈をもてあましていたら、そりゃあ乱のひとつやふたつ起こしたくなるわ。そうやって義和団の乱とか起こったんだろ?
車両入り口には荷物を抱えた中華人民の皆様が殺到。きっと、みんな無座なのだろう。イスの席だったら全部指定席なんだから、殺到する必要は無いからな。
人と争うことがなにより苦手で、誰かを傷つける位だったら自分が傷つく方がずっとマシという考えの優しすぎるオレは、うごめく塊と化した乗客の最後尾についてやっと車両に入ることができた。というかもちろん中国人の小競り合いが激し過ぎてとても割り込めなかったというのが本当の所である。インド人の中なら突撃して行けないことも無いが、中国人だとなんか怖いのはなぜだろう。やっぱりイメージが……。歌舞伎町……マフィア……青龍刀……。
さて、無座のチケットを持っている者は、最もランクの低い座席である「硬座」がもし空いていたら勝手に座ることが出来る。とはいえ、そんな貴重な空間は先頭で殺到した方々がとっくに殺し合いの末に確保しており、さすがの漢委奴国王(かんのなのわのこくおう)であるオレも特別扱いはされない。
乗車率5万%の血みどろの車内を見渡してみると、中央の通路に人が並び、車両間の出入り口スペースも人で埋まり、中国だけに両足を180度広げてそれぞれの足裏を壁に付けて踏ん張り、合掌しながら空中に留まっているクンフーの使い手などもいる。いるわけねーだろっっ!!!
ふと見ると、閉まっている乗降用のドアのところに、50cmほどの床の空間を発見した。よし、あそこを取るぞ。あそこまで行くには……、空間の手前に座っているバアさんを飛び越えて行く必要があるな。
それではまずは荷物から……。オレは背負っていたバックパックを下ろしてぶらんぶらんと前後に振り、勢いをつけバアさんの頭ごしに放り投げてスペースに着地させようとした。
せ~~~のっ!
「ニープーライチュイナーリー!!!」 グワ~ン
「おおおっっ!!!」