むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
彦一の村には、金作(きんさく)という、とてもつむじ曲がりのおじいさんが住んでいます。
この金昨は、人が山と言えば川と言うし、右と言えば左と言うような人です。
そんな金作にすっかり困り果てた村人たちが、彦一のところにやって来ました。
「のう、彦一。お前さんのちえで、金作じいさんのつむじ曲がりを治してくれないか」
「わかった。おらにまかせておくれ」
次の日、彦一は金作じいさんのところへやって来て言いました。
「金作じいさん。いい天気だね」
「おう彦一か。なにが、いい天気なもんか。こんなに日が照っていては道が乾いて、ほこりがたってしょうがないわい。どうせなら、雨でも降ればいいんだ」
「おやおや、さすがは有名なあまのじゃく」
彦一は首をすくめると、金作じいさんに言いました。
「ねえ、じいさん。明日からおれと、あまのじゃく比べをしようじゃないか」
「なに、あまのじゃく比べだと」
「そうだよ。お互いに何を言っても『うん』って返事をしないで、反対の事を言うのさ。じいさん、得意だろ?」
「アハハハハハッ。とんち小僧が何を考えているのかは知らんが、わしは子どもの頃からのあまのじゃくじゃ。あまのじゃく比べで、わしにかなうわけがなかろう」
「さあ、それはどうかな? とにかく、明日からあまのじゃく比べをしよう」
「ようし。受けて立とう。その代わりわしに負けたら、二度ととんち小僧なんて言わせんぞ」
「いいとも」
さて、次の朝、金作じいさんは川へ魚釣りに行きました。
そしてすぐに、カゴに一杯の魚が釣れました。
「さあ、ずいぶん釣れたぞ。さて、帰るとしようか」
金作じいさんが帰ろうとすると、そこへ彦一がやって来て尋ねました。
「やあ、じいさん、魚釣りかい?」
ここで 『うん』と答えたら、あまのじゃく比べに負けてしまいます。
そこで金作じいさんは、
「なあに。魚を捨てに来たのさ」
と、答えて、魚の入ったカゴをポンと投げ捨てました。
すると彦一は、ニッコリ笑って、
「もったいないな。捨てた魚なら、おらが拾っていこう」
と、魚のカゴをかついで、さっさと行ってしまいました。
「彦一め! よくもやったな!」
金作じいさんは、地面を蹴って悔しがりました。
次の日、金作じいさんは彦一が田んぼで稲刈りをしているのを見つけました。
「しめたぞ。あの稲を取り上げてやろう」
金作じいさんは、彦一のところへやって来て、
「おう、彦一。稲刈りか?」
と、声をかけました。
彦一も、ここで『うん』と言ったら負けになるので、
「いいや、稲捨てだよ」
と、答えました。
それを聞いた金作じいさんは、うれしそうに笑うと、
「捨てた稲なら、わしが拾っていこう」
と、彦一が刈った稲をみんなかついで、村の方へ持って行きました。
すると彦一は、平気な顔で金作じいさんのあとについて歩きます。
そして自分の家の前まで来ると、
「じいさん。おらの田んぼに稲を拾いに行ったのかい?」
と、尋ねました。
金作じいさんは、
「いいや。稲刈りに行ったのさ」
と、答えました。
それを聞いた彦一は、にっこり笑うと、
「アハハハハハッ。借りた物なら、返しておくれよ」
と、言って、金作じいさんが運んできた稲をみんな取り返してしまいました。
これでは、金作じいさんは彦一の稲を田んぼから家まで運んでやったようなものです。
さすがの金作じいさんも、これにはすっかりまいってしまいました。
「いやいや、お前は大したとんち小僧だ。この勝負は、わしの負けだ。もうこれからは、あまのじゃくは言わない事にするよ」
その日から金作じいさんは、とても素直なおじいさんになったということです。