むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
殿さまが死んで若さまが殿さまになってから、何年かたったある日の事です。
彦一の家に、お城から使いが来て言いました。
「殿さまが、お前にほうびをつかわすそうじゃ。城にまいるがよい」
それを聞いて、彦一は首をひねりました。
「はて、何をくださるおつもりじゃろ?
若さま、・・・いや殿さまは、気前(きまえ)が良いからな。
ほうびがたくさんあると持ちきれないから、ねんのためにウシをひいていこう」
彦一が牛をひいてお城にあがると、殿さまが言いました。
「これ、彦一。ちこうよれ。そちのとんちのかずかず、あいかわらず城でもひょうばん。おかげで、父上なきあとのこの城もほがらかじゃ。よって、ほうびをとらす」
「はーっ、ありがたき幸せにぞんじます」
「では、彦一へのほうびをもて」
お殿さまが手をたたくと、家来が一本の刀と米俵(こめだわら)を持ってきました。
(何だ、米俵は一つか)
どうせなら米俵をもう一俵ほしいと思った彦一は、牛の背中の片方に刀をくくりつけ、もう片方に米俵をくくりつけました。
刀は軽いけれど米俵はズッシリと重いので、牛はバランスがとれません。
牛は体がななめになって、うまく歩くことが出来ませんでした。
彦一はそれを見てにんまり笑うと、わざと牛にむかって怒り出しました。
「こら! お前というやつは牛のぶんざいで、お殿さまからいただいた片方のごほうびを重んじ、もう片方をかろんずるつもりか! さあ、はやく歩かんか!」
しかし牛はうまく歩けず、ついに座りこんでしまいました。
「はて、これはこまった。せっかくお殿さまからいただいたごほうびをなのに。ここにもう一俵の米俵があれば、牛はうまく歩けるのだが」
彦一がわざとこまっていると、お殿さまが家来に言いつけました。
「彦一に、米俵をもう一俵つかわしてやれ。・・・やれやれ、まったく大したとんちだ」
牛は米俵を左右につけてもらうと、今度は調子よく歩き出しました。