むかしむかし、あるところに、甚兵衛(じんべえ)というほら吹きがいました。
ある日の事、
「大変だ! 大変だー! この先の池で、お殿さまが死んでいるぞ!」
と、甚兵衛が大声で言うので、それを聞いた殿さまの家来たちが青くなってかけつけてみると、池には殿さまガエルが一匹死んでいるだけでした。
「なんとも、悪質なほらを! 許さん!」
家来たちは甚兵衛を捕まえると、お城に連れて行きました。
ところが殿さまは怒るどころか、その話しを聞いて大笑いです。
「よいよい、なかなかおもしろい男じゃ」
殿さまは楽しい事が大好きで、ほらも立派な芸の一つと考えています。
「甚兵衛とやら、よければ城にいる三人のほら吹き名人と、ほら比べをしてみないか? 勝てたなら、ほうびをやろう」
こうして甚兵衛は、殿さまの前でほら比べをする事になりました。
呼ばれた三人の家来は、いつもほらの勉強をしているので、ほらがとても上手です。
「ふん、こんな田舎者(いなかもの)に、我々が負けてたまるか」
三人とも、怖い顔で甚兵衛をにらんでいます。
「では、まずわたしから」
一番目の家来が、言いました。
「わたしの国には、一万年もたった大きな木があります。枝は国中に広がっていて、雨が降ってもカサがいりません」
次に、二番目の家来が言いました。
「わたしの国には、富士山をまたいで日本中の草を食べてしまう、とても大きなウシがいます。琵琶湖(びわこ)の水なんか、ひと飲みでなくなってしまいます」
続いて、三番目の家来が言いました。
「わたしの国には、海で顔を洗う大男がいます。大男が海の水を手ですくうたびに洪水(こうずい)が起こり、国中の家が流されてしまいます」
それらのほらを聞いた殿さまは、大喜びです。
「よいよい、三人とも、なかなかのほらじゃ」
殿さまにほめられて、三人の家来は自慢げに胸を張りました。
「さて、甚兵衛。お前のほらはどうじゃ」
殿さまの言葉に、三人の家来が甚兵衛を見つめました。
甚兵衛がどんなほらを吹いても、けちをつけるつもりです。
「はい、では」
甚兵衛は座りなおすと、殿さまの方を見て言いました。
「わたしは、胴のまわりが三百里(→千二百キロほど)もあって、たたけば世界中に鳴りひびく大太鼓(おおだいこ)を作りたいと思います」
「そんなに大きな太鼓を、どうやって作るのだ?」
家来の一人がたずねると、甚兵衛が答えました。
「まず胴は、一万年もたった大きな木で作り、太鼓の皮は富士山をまたぐウシの皮を張り、それから海の水で顔を洗う大男に太鼓をたたかせます」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
このほらには、三人の家来もけちがつけられません。
甚兵衛のほらは三人のほらをうまく使っているので、甚兵衛のほらにけちをつけるのは自分たちのほらにけちをつける事になるからです。
その三人の様子を見た殿さまは、手を叩いて言いました。
「見事! ほら吹き比べは、甚兵衛の勝ちじゃ!」
ほら吹き比べに勝った甚兵衛は、殿さまにたくさんのほうびをもらいました。