むかしむかし、ある村に、とても世間知らずの婿さんがいました。
ある日の事、その婿さんが嫁さんと一緒に実家に呼ばれました。
二人に、ごちそうをしてくれると言うのです。
嫁さんは、少し考えました。
(この人がごちそうを食べる順番を間違えて笑われない様にしないと)
そこで嫁さんは、婿さんの服に糸をぬい付けるとこう言いました。
「あなた、あたしが横で、この糸を引っ張って合図をします。
『ツン』と、一回引っ張ったら、おつゆを飲むのです。
『ツンツン』と、二回引っ張ったら、ごはんを食べるのです。
『ツンツンツン』と、三回引っ張ったら、おかずを食べるのですよ」
「うん、わかった」
さて、二人が実家に着くと、さっそくごちそうが並べられました。
横に並んだ嫁さんが、『ツン』『ツンツン』『ツンツンツン』と、上手に合図を出してくれるので、婿さんは、おつゆも、ごはんも、おかずも、順序よく落ち着いて食べ始めました。
それを見て実家の両親は、
「世間知らずと聞いていたが、なかなか大した者じゃ」
と、感心しました。
でもそのうちに、嫁さんはトイレに行きたくなったので、
(まあ、少しの間くらいは大丈夫でしょう)
と、持っていた糸を後ろの柱に結んで、部屋を出て行きました。
するとそこにネコがやって来て、ゆらゆらとゆれる糸にじゃれつき始めたのです。
『ツンツン、ツン、ツンツンツンツンツン』
ネコが無茶苦茶に糸を引っ張るので、 婿さんはびっくりです。
「これは大変だ! 急がないと」
婿さんはネコが引っ張るのに合わせながら、おつゆも、ごはんも、おかずも、夢中で口に放り込みました。
その様子を見ていた実家の両親たちは、
「やっぱり、この婿さんは相当な世間知らずじゃ」
と、あきれ果てたそうです。