むかしむかし、江戸にある大きな川の渡し舟小屋へ、一人の侍がやってきました。
侍は、大きな屋敷から来た使いだと言って、
「今夜、お屋敷の姫が、川むこうの町にあるお屋敷へ嫁入りをされる。
お付きの者たちは、百名を超えるであろう。
だからこの川の渡し舟を残らずここに集めて、待っていてほしい。
とりあえず小判十枚をつつんでおいたが、舟賃はあとでたくさんのご祝儀と一緒に出すつもりである」
と、渡し舟の用意を頼むと、帰っていきました。
「こりゃ、久しぶりの大仕事だぞ!」
渡し舟の親方は大喜びで、すぐに仲間たちの舟を渡し場に集めました。
その夜、ちょうちんの灯をいくつもつらねてたくさんの侍たちに見守られながら、お姫さまのかごがやって来ました。
船頭たちは、行列をうやうやしく出むかえました。
そして失礼のないように一人一人を舟に案内して、ゆっくりと夜の川を渡っていきました。
向こう岸に着くと行列の人たちはほとんど話もせずに、吸い込まれる様に夜の闇の中に消えていきました。
さて、次の日の朝のことです。
船頭の親方は昨日受け取ったお金を仲間たちに分けようと、神棚の上にのせておいた小判が入った包み紙を手に取りました。
「おや? やけに軽いな」
親方は、小判の包み紙を開いてびっくり。
「なっ! なんだ、これは!」
なんと中に入っていたのは、十枚の葉っぱだったのです。
「ちくしょう! キツネのやつ、派手にやってくれやがったな!」
むかしは、こんな話がよくあったそうです。