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白夜行7-9
日期:2017-01-17 09:55  点击:372
 千都留が品川駅に着いたのは、十時十分前だった。部屋の片づけや帰省の支度に、思った以上に時間がかかってしまったのだ。
 大勢の人々と共に、彼女は駅前の交差点を渡り、ホテルに向かった。
 パークサイドホテルの歩行者用の入り口は道沿いにあったが、正面玄関に行くには、そこから敷地内の庭園を歩かねばならなかった。千都留は重い荷物を手に、曲がりくねった細い舗道を進んだ。いろとりどりの花がライトアップされているが、それらを観賞している余裕はあまりなかった。
 ようやく正面玄関に近づいてきた。タクシーが次々と入ってきては、その前で客を降ろしている。やはりこういうホテルに来る時には、車でないと格好がつかないなと千都留は思った。ホテルのボーイたちも、徒歩でやってくる客には関心がなさそうだ。
 千都留が正面玄関の自動ドアを通ろうとした時だった。
「ちょっとすみません」突然後ろから声をかけられた。
 振り返ると、黒っぽいスーツを着た若い男が立っていた。
「失礼ですが、これからチェックインされる方でしょうか」男は尋ねてきた。
「そうですけど」警戒しながら千都留は答えた。
「じつは私、警視庁の者なのですが」そういって男は上着の内側から、ちらりと黒い手帳を見せた。「折り入ってお願いがあるのです」
「あたしにですか」千都留は面食らった。自分が何かの事件に関係している覚えはなかった。
 ちょっとこちらへ、といって男は庭園のほうに歩きだした。それで仕方なく、千都留もついていった。
「今夜は一人でお泊まりですか」男が訊いた。
「そうですけど」
「それは、こちらのホテルでなければいけないのでしょうか。たとえば、この奥にもホテルがありますが、そちらではいけないのでしょうか」
「それは別にいいんですけど、このホテルに予約をとってあるので……」
「そうでしょうね。だからこそ、あなたにお願いがあるんです」
「どういうことですか」
「じつは、このホテルにある事件の犯人が泊まっているんです。それで我々としては、出来るだけ近くで監視したいのですが、生憎《あいにく》今夜は団体客の予約が入っていて、捜査に使う部屋を確保できない状態なのです」
 男のいいたいことが、千都留にもわかってきた。
「それであたしの部屋を?」
「そういうことです」男は頷いた。「すでにチェックインしたお客さんに代わっていただくのは難しいですし、あまり妙な動きをして、犯人たちに気づかれるのもまずいのです。それで、まだチェックインしていないと思われる方を、お待ちしていたというわけです」
「はあ、そうなんですか……」千都留は相手の男を見た。よく見ると、ずいぶんと若い感じがした。まだ新米なのかもしれない。しかしスーツをきっちりと着こなし、精一杯の誠意を示そうとしている点は好感が持てた。
「もし了解していただけるのでしたら、今夜の宿泊代はこちらで出させていただきますし、ホテルの前までお送りします」と男はいった。言葉のアクセントに、かすかに関西弁が混じっていた。
「この奥にあるホテルというと、クイーンホテルですよね」千都留は確認した。そこならパークサイドホテルよりも、はるかに格上だ。
「クイーンホテルの、四万円の部屋を確保してあります」彼女の内心を見抜いたように、男は部屋のクラスを述べた。
 自腹では絶対に泊まることのない部屋だ、と彼女は思った。それで気持ちが固まった。
「そういうことでしたら、あたしは構いませんけど」
「ありがとうございます。では、自分がホテルの前までお送りします」男は千都留の荷物に手を伸ばしてきた。

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