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世界尽头与冷酷仙境24
日期:2017-02-16 19:37  点击:411
 三日間つづいた見事な晴天は、その日の朝目を覚ますともう終っていた。空は暗い色をしたぶ厚い雲に一分の|隙《すき》もなく|覆《おお》いつくされ、そこをとおり抜けやっと地上にたどりつくことのできた太陽の光はその本来の暖かみと輝きのあらかたを奪いとられていた。そんな灰色にくぐもった冷ややかな光の中で、樹木は葉を落としたむきだしの枝を空に向けてまるでひび[#「ひび」に丸傍点]のような形にのめりこませ、川は固くこわばった水音をあたりに響かせていた。いつ雪が降りはじめてもおかしくなさそうな雲ゆきだったが、雪は降っていなかった。
「今日はたぶん雪は降らんだろう」と老人が|僕《ぼく》に教えてくれた。「あれは雪を降らせる雲じゃない」
 僕は窓を開けて空をもう一度見上げてみたが、どれが雪を降らせる雲でどれが雪を降らせない雲なのかは見わけられなかった。
 
 門番は大きな鉄のストーヴの前に座り、|靴《くつ》を脱いで足を温めているところだった。ストーヴは図書館にあるのと同じ型のものだった。上部にふたつやかん[#「やかん」に丸傍点]か|鍋《なべ》をのせるための台がついていて、いちばん下に灰をとりだすひきだしがついている。前部はキャビネットのようになっていて、大きな金属の|把《とっ》|手《て》がついている。門番は|椅《い》|子《す》に座って、両足をその把手の上にのせていた。部屋の中はやかんの蒸気と安もののパイプ|煙草《た ば こ》の|臭《にお》い——それもおそらく代用品の煙草なのだろう——のおかげでむっとする湿り気に|充《み》ちていた。その中にはもちろん彼の足のにおいも混じっていたはずだ。彼の座った椅子のうしろには大きな木のテーブルがあって、その上には|砥《と》|石《いし》といっしょになた[#「なた」に丸傍点]や|手《て》|斧《おの》がずらりと並べてあった。どのなた[#「なた」に丸傍点]もどの手斧も握りの部分がすっかり変色してしまうくらいよく使いこまれていた。
「マフラーのことです」と僕は切りだした。「マフラーがないと首筋がとても冷えるんです」
「まあ、そりゃそうだろうな」と門番はもっともらしく言った。「それはよくわかるよ」
「図書館の奥の資料室に|誰《だれ》も使っていない衣類があるんです。それでもしその一部を使うことができればと思って」
「ああ、あのことか」と門番は言った。「あれならどれでも使っていい。あんたならかまわないよ。マフラーでもコートでもどれでも好きなのを持ってっていいよ」
「持ち主はいないんですか?」
「持ち主のことは気にせんでいい。もし持ち主がいたとしても、そんなもののことはとっくに忘れてるさ」と門番は言った。「ところであんた、楽器を捜してるようだね」
 僕は|肯《うなず》いた。彼は何でも知っているのだ。
「楽器というものは原則としてこの街には存在しない」と彼は言った。「しかしまったくないわけではない。あんたも|真《ま》|面《じ》|目《め》に仕事をしていることだし、楽器くらい手に入れてもべつに不都合はなかろう。発電所に行ってそこの管理人に|訊《き》いてみるんだな。そうすればたぶん楽器はみつかるよ」
「発電所?」と僕は驚いて言った。
「発電所くらいあるさ」と門番は言って頭上の電球を指さした。「いったいどこからこの電気が来ると思ってたんだ? りんごの木になるとでも思ってたのかね?」
 門番は笑いながら発電所に行く道筋を地図に|描《か》いてくれた。「川の南側の道をずっと上流に向けて歩くんだ。すると三十分ほどで右手に古い穀物倉庫が見えてくる。もう屋根がなくて|扉《とびら》もとれてるやつだ。その角を右に曲ってしばらく道なりに歩くんだ。すると丘があり、その丘の向うが森になっている。森に入って五百メートルほど進めば発電所だ。わかるかね?」
「わかると思います」と僕は言った。「しかし冬の森に行くのは危険なことなんじゃないんですか? みんなそう言っていますし、僕自身もひどい目にあいました」
「ああ、そうだったな。そのことをすっかり忘れていたよ。あんたを荷車にのせて丘の上まで上げたんだ」と門番は言った。「もう具合はいいのかね?」
「大丈夫です。どうもありがとう」
「少しは|懲《こ》りたかね?」
「ええ、そうですね」
 門番はにやりと笑って把手の上に載せた足の位置を入れかえた。「懲りるのは良いことだ。人は懲りると用心深くなる。用心深くなると|怪《け》|我《が》をしなくなる。良い|樵《きこり》というのは体にひとつだけ傷を持っているもんさ。それ以上でもなく、それ以下でもない。ひとつだけさ。|俺《おれ》の言ってることはあんたわかるよな?」
 僕は肯いた。
「しかし発電所のことは心配せんでもいい。森のすぐ入口にあるし、道も一本で迷いっこない。森の連中にも会わずに済む。危険なのは森の奥と壁のそばだ。そこさえ避ければ心配するほどのことはない。ただし絶対に道をそれちゃいかんし、発電所の奥にも行っちゃいかん。行くとまたひどい目にあうことになるよ」
「発電所の管理人は森に住む人なのですか?」
「いや|奴《やつ》はそうじゃない。奴は森の連中とも違うし、街の人間とも違う。|半《はん》|端《ぱ》な男さ。森にも入れんし、街にも|戻《もど》れん。害はないが、度胸もない」
「森に住むのはどんな人なんですか?」
 門番は首を曲げ、黙ってしばらく僕の顔を見ていた。「たしか俺は最初にあんたに言ったよな、何を訊くかはあんたの勝手だけど、答える答えないは俺の勝手だってな」
 僕は肯いた。
「まあいいさ。とにかく俺は答えたくない」と門番は言った。「ところであんたずっと自分の影に会いたいって言ってたな。どうだい、そろそろ会ってみるかね? 冬になって影の力もいくぶん弱ってきたし、もう会わせても不都合はなかろう」
「具合が悪いんですか?」
「具合は悪かないさ。ぴんぴんしてるさ。毎日何時間かはそとに出して運動もさせているし、食欲だって立派なもんさ。ただ冬になって日が短かくなり寒さが増すと、影というのはどんな影だって調子を落としてくるものなんだ。それは誰のせいでもない。ごくあたりまえの自然の摂理ってもんさ。俺のせいでもなきゃあんたのせいでもない。まあ会わせてやるから本人とじかに話すんだね」
 門番は壁にかかった|鍵《かぎ》|束《たば》をはずして上着のポケットにねじこみ、あくびをしながらがっしりとした皮の編みあげ靴をはいた。ひどく重そうな靴で、靴底には雪の中を歩けるように鉄のスパイクが打ってあった。
 影の住んでいる場所は街と外の世界のいわば中間地点だった。僕は外の世界に出ることはできないし、影は街の中に入ることはできない。だから〈影の広場〉は影を失った人と人を失った影とがめぐりあえる|唯《ゆい》|一《いつ》の場所ということになる。門番小屋の裏口を出たところに影の広場はあった。広場といってもそれは名前だけのことで、とくに広い敷地があるわけではない。普通の家の庭を少し広くした程度のもので、まわりは厳重な鉄の|柵《さく》に囲まれている。
 門番はポケットから鍵束を出して鉄の扉を開け、僕をまず中に入れ、それから自分も入った。広場はきちんとした正方形で、つきあたりは街をとり囲む壁になっている。|片《かた》|隅《すみ》に古い|楡《にれ》の木があり、その下に簡単なベンチが置いてあった。生きているのか死んでいるのかわからないような、白ちゃけた楡の木だった。
 壁の隅に|古《ふる》|煉《れん》|瓦《が》と廃材で間にあわせにこしらえたような小屋が建っていた。窓にはガラスはなく、はねあげ式の板戸がついているだけだ。煙突がないところを見ると、たぶん暖房の設備もないのだろう。
「あそこにあんたの影が寝とまりしてるんだ」と門番は言った。「見た目ほど居心地は悪くない。いちおう水も出るし、便所もある。地下室もあって、そこならすきま風も入らない。まあホテルなみとはいかんが、雨風は十分にしのげる。入って見てみるかね?」
「いや、ここで会うことにします」と僕は言った。門番小屋の中のひどい臭いのする空気のせいで、僕の頭は痛んでいた。少々寒くても新鮮な空気の吸えるところの方がずっと良かった。
「いいとも、今ここにつれてくる」と門番は言って、一人で小屋の中に入っていった。
 僕はコートの|襟《えり》を立てて楡の木の下のベンチに座り、靴のかかとで地面をほじくりながら影がやってくるのを待った。地面は固く、ところどころに凍りついた雪が残っていた。壁の足もとには、日陰になったぶんだけ雪がそのまま溶けずに残っている。
 しばらくあとで門番が影をつれて小屋の中から出てきた。門番は靴底のスパイクで凍った地面を押しつぶすように|大《おお》|股《また》で広場を横切り、そのあとをゆっくりと僕の影がついてきた。僕の影は門番が言うような元気そのものという風には見えなかった。彼の顔は以前よりいくぶんやつれ、目と|髭《ひげ》がいやに目立っていた。
「少し二人きりにしといてやろう」と門番は言った。「まあつもる話もあるだろうしな。ゆっくり話すがいい。でもそれほど長くはだめだ。何かの加減でくっついちまうとまたひっぱがすのに時間がかかるしな。それにそんなことしたって何の役にも立たない。お互い面倒なだけだ。そうだろ?」
 そうだ、という風に僕は肯いた。たぶんそのとおりなのだろう。くっついたところで、またはがされるだけだ。そして同じことをもう一度はじめからやりなおさなくてはならない。
 門番が扉に鍵をかけて小屋の中に消えていくのを僕と僕の影はじっと目で追っていた。ざくざくというスパイクが地面を|噛《か》む音が遠ざかり、やがて重い木の扉が音をたてて閉まった。門番の姿が見えなくなってしまうと、影は僕のとなりに腰を下ろした。そして僕と同じように靴のかかとで地面に穴を掘った。彼はごわごわとした目の粗いセーターに作業ズボン、それに僕の与えた古い作業靴といった格好だった。
「元気かい?」と僕は訊いてみた。
「元気なわけはないさ」と影は言った。「寒すぎるし、食事もひどい」
「毎日運動しているって聞いたけど」
「運動?」と言って影は不思議そうに僕の顔を見た。「ああ、あれは運動なんていうものじゃないよ。毎日ここからひっぱり出されて、門番が獣を焼くのを手伝わされるだけさ。死体を荷車に積みあげて門の外に出てりんご林の中に運び、油をかけて焼くんだ。焼く前に門番が獣の頭をなた[#「なた」に丸傍点]でちょん切るんだ。君も彼のあの素晴しい刃物のコレクションは見ただろう? あの男はどう見てもまともじゃないね。事情さえ許せば世界中のあらゆるものをちょん切ってまわりたがってるみたいだ」
「彼も街の人間なのかな?」
「いや、違うね。あいつはたぶん雇われているだけだ。奴は獣を焼くのを楽しんでいる。街の人間はそんなことは考えない。冬になってからもうずいぶん沢山焼いたよ。今朝は三頭死んだ。これから焼くんだ」
 影は僕と同じように靴のかかとで凍った地面をしばらく掘りかえしていた。地面は石のように固くこわばっていた。冬の鳥が鋭く鳴いて楡の木の枝から飛び立っていった。
「地図はみつけたよ」と影は言った。「思ったよりよく描けているし、説明の要領もいい。ただしちょっと遅すぎたけどね」
「体をこわしていたんだ」と僕は言った。
「そのことは聞いたよ。でも冬が来てからじゃ遅すぎたんだ。もっと前に欲しかった。そうすれば物事はもっと円滑に進んだし、計画だってもっと早く立てられた」
「計画?」
「ここから逃げだす計画だよ。決まってるじゃないか。それ以外にどんな計画がある? 君はまさか俺が暇つぶしのためにこの地図を欲しがったと思ってるんじゃなかろうね」
 僕は首を振った。「僕はこの奇妙な街が持つ意味を君が教えてくれるんじゃないかと思ったんだ。何しろ君は僕の記憶の|殆《ほと》んど全部を持っていってしまったわけだからな」
「それは違うね」と影は言った。「たしかに俺はあんたの記憶のおおかたを持ってはいるが、それを有効に使うことはできないんだ。そうするためには我々はもう一度一緒にならなくちゃいけないんだが、それは現実的に無理だ。そんなことをしたら俺たちは二度と会えなくなるし、それでは計画そのものが成立しない。だから俺は今一人で考えているんだ。この街の持つ意味というものをね」
「何かわかったかい?」
「少しはわかったが、それはまだ君には言えない。細部をきちんと補強しないと説得力がないからね。もう少し考えさせてくれ。もう少し考えれば何かがわかりそうな気がするんだ。でもそのときにはもう手遅れってことになっているかもしれない。何しろ冬がやってきて以来俺の体は確実に弱りつづけているから、このままじゃ脱出計画が完成しても体力がなくて実行できないっていうことにもなりかねない。だから俺はこの地図を冬が来る前に欲しかったんだ」
 僕は頭上の楡の木を見あげた。太い枝のあいだに細かく区切られた冬の暗い雲が見えた。
「でもここからは脱出できない」と僕は言った。「地図はよく見ただろう? 出口なんてどこにもないよ。ここは世界の終りなんだ。もとには戻れないし、先にもいけないんだ」
「世界の終りかもしれないが、ここには必ず出口がある。それは俺にははっきりとわかるんだよ。空にそう書いてある。出口があるってね。鳥は壁を越えるよな? 壁を越えた鳥はどこへ行くんだ? 外の世界だ。この壁の外にはたしかにべつの世界があるし、だからこそ壁は街を囲んで人々を外に出さないようにしているんだ。外に何もなきゃわざわざ壁で囲いこむ必要なんてない。そして必ずどこかに出口はあるんだ」
「あるいはね」と僕は言った。
「俺は必ずそれを見つけ、君と一緒にここを|脱《ぬ》けだす。こんな|惨《みじ》めなところで死にたくはない」
 影はそう言うと黙りこんで、また地面を掘りかえした。
「最初にも君にそう言ったと思うが、この街は不自然で間違っている」と影は言った。「それは今でもそう信じている。不自然だし、間違っている。しかし問題は不自然で間違っているなりにこの街が完成されているっていうことなんだ。何もかもが不自然で|歪《ゆが》んでいるから、結果的にはすべてがぴたりとひとつにまとまってしまうんだよ。完結してるんだ。こんな風にね」
 影は靴のかかとで地面に円を描いた。
「輪が収束しているんだ。だから長くここにいて、いろんなことを考えていると、だんだん彼ら[#「彼ら」に丸傍点]の方が正しくて自分が間違っているんじゃないかって気になってくるんだ。彼ら[#「彼ら」に丸傍点]があまりにもぴしりと完結しているみたいに見えるからね。俺の言ってることはわかるかい?」
「よくわかるよ。僕もときどきそう感じることがある。街に比べると、僕が弱い矛盾した微小な存在じゃないかってね」
「でもそれは間違ってるんだ」と影は円のとなりに意味のない図形を描きながら言った。「正しいのは俺たちで、間違っているのは彼らなんだ。俺たちが自然で、奴らが不自然なんだ。そう信じるんだね。あらん限りの力で信じるんだ。そうしないと君は自分でも気がつかないうちにこの街に|呑《の》みこまれてしまうし、呑みこまれてからじゃもう手遅れってことになる」
「しかし何が正しくて何が間違っているというのはあくまで相対的なものだし、だいいち|僕《ぼく》にはそのふたつを比べてみるにも尺度とするべき記憶というものが奪い去られているんだ」
 影は肯いた。「君が混乱していることはよくわかるよ。しかしこう考えてみてくれ。君は永久運動というものの存在を信じるかい?」
「いや、永久運動は原理的に存在しない」
「それと同じさ。この街の安全さ・完結性はその永久運動と同じなんだよ。原理的には完全な世界なんてどこにも存在しない。しかしここは完全だ。とすれば必ずどこかにからくりがあるはずなんだ。見た目に永久運動とうつる機械が何らかの目には見えない外的な力を裏側で利用しているようにね」
「君はそれをみつけたのかい?」
「いや、まだだ。さっきも君に言ったように俺は仮説を立ててはいるが、まだ細部を補強しなくちゃならないんだ。それにはもう少し時間がかかる」
「その仮説を教えてくれないか。僕にも少しは君のその補強作業を手伝えるかもしれない」
 影はズボンのポケットから両手を出し、それにあたたかい息を吐きかけてから|膝《ひざ》の上でこすりあわせた。
「いや、君には無理だろう。俺は体を痛めてるが、君は心を痛めている。何よりも先に君はそれを修復するべきだ。そうしないと脱出する前に二人とも|駄《だ》|目《め》になっちまう。俺は一人で考えるから、君は君自身を救うために手をつくすんだ。それがまずだいいちだ」
「たしかに僕は混乱している」と僕は地面に描かれた円に目を落としながら言った。「君の言うとおりだ。どちらに進んでいいのかを見定めることもできない。自分がかつてどういう人間であったのかということもだ。自己を見失った心というものがはたしてどれだけの力を持てるものなんだろう。それもこれほど強い力と価値基準を持った街の中でだ。冬がやってきて以来僕は自分の心に対して少しずつ自信を失いつづけているんだ」
「いや、それは違うね」と影は言った。「君は自己を見失ってはいない。ただ記憶が巧妙に隠されているだけだ。だから君は混乱することになるんだ。しかし君は決して間違っちゃいない。たとえ記憶が失われたとしても、心はそのあるがままの方向に進んでいくものなんだ。心というものはそれ自体が行動原理を持っている。それがすなわち自己さ。自分の力を信じるんだ。そうしないと君は外部の力にひっぱられてわけのわからない場所につれていかれることになる」
「努力してみるよ」と僕は言った。
 影は肯いてしばらく曇った空を|眺《なが》めていたが、やがて何かを考えこむように目を閉じた。
「俺は迷ったときはいつも鳥を見てるんだ」と影は言った。「鳥を見ると自分が間違っていないということがよくわかる。街の完全さなんて鳥には何の関係もない。壁も、門も、角笛も、何の関係もないんだ。君もそんなときは鳥を見るといいんだ」
 |檻《おり》の入口で門番が僕を呼ぶのが聞こえた。面会時間が過ぎたのだ。
「このあとしばらくは俺に会いに来ないでくれ」と別れ|際《ぎわ》に影が耳うちした。「必要なときは俺の方が君と会えるように細工する。門番は疑り深い男だから、俺たちが何度も会っているときっと何かあるんじゃないかと用心するし、用心されると俺の作業がやりにくくなる。もし訊かれたら俺とあまり話があわなかったってふりをするんだ。いいね?」
「わかった」と僕は言った。
 
「どうだったね?」と小屋に戻ると門番が僕にたずねた。「久しぶりに自分の影と会えて楽しかったかね?」
「わかりませんね」と僕は言って否定的に首を振った。
「そういうもんさ」と門番は満足したように言った。

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