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野火31
日期:2017-02-27 17:12  点击:462
 三一 空の鳥
 
 或る日轟音が空に響いた。大型爆撃機の編隊が、頭上の狭い空を渡るところであった。鳳のように翼を延ばして、空の青に滲み、雲から雲へ隠れて、のろく早く過ぎた。音が空に満ち、地に反響して、耳に唸りを押し込んだ。
 彼等は「神」の体を傷めて、横切りつつあった。遅れた一機は半身が青、半身が黄色に染っていた。
 私は再び飢えを感じた。
 音に驚いたか、谷の向うの林の梢から、一羽の白鷺が飛び立った。首を延ばし、ゆるやかに翼をあおって、編隊に追いつこうとするかのように、中空へ高度を高めて行った。
 私の半身、つまり私の魂は、その鷺と一緒に飛び去った。魂がなくなった以上、祈れないのは当り前だ、と私は思った。今は私の右の半身は自由であった。
 蠅が降って来た。空を一面に、花のように満たして、唸りながら、真直に私の顔に急降下して来た。神の血であった。
 私は立ち上り、谷を出て、光る野の中を、飢えながら駈けて行った。丘を上っていた。木につかまり、草をつかんで、苦しい登攀であった。そして私はあの窪地に再び「彼」を見た。
 彼は巨人となってそこに仰向いていた。赤褐色にふくれ上った四肢に、淡緑の文様が刺青のように走り、皮膚は処々破裂して、汚緑色の実質を現わしていた。腹部は帯革を境いに、二つの球に聳えていた。彼は食えなかった。
 神が私がここへ来る前に、彼を変えたのである。彼は神に愛されていた。そして恐らくは私もまた……

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