かつて、生産とは、一定の明確な目的を目指して効率的な組織を作り、正確で勤勉な労働を求めれば成立したのであるが、この根本的な理念がいま大きく揺らぎ始めている。というのは、技術的な研究はもちろん、新しい利便と意匠を持つ商品の開発、消費者の需要と対話を行う宣伝、調査、セールスといった仕事、要するに生産の目的そのものを探求する、創造的で、効率を計りにくい仕事が重要になったからである。消費者の側も同じであって、現代の消費者は商品の選択と購入を通じて、まさに自分自身の欲望を探し求めている、と見ることができる。これまで消費とは、すでにわかっている基礎的欲望を目的として、それをより安く効率的に購入する目的指向型の行動であった。しかし、美しさや面白さが欲望の対象になると、これはあまりにも多様で個別的であるから、あらかじめ行動の客観的な目的とはなりにくい。人は市場に出かけ、一つ一つの商品にまず出会い、それを魅力的だと感じたときに、逆に初めて、自分が何を欲していたかを知るのである。
そこではあたかも芸術の鑑賞者と同じく、消費者もまた自分が何を好んでいたかに気付くのであって、一種の表現と自己発見がなされているといえる。このように見ると、現代の社会は、生産者と消費者が一つになって、人間の欲望と趣味を探し求めている巨大な実験室だ、と言えるかもしれない。
(山崎正和「自己発見としての人生」より)
1、現代の消費者の特徴はどれか。
①予め購入したい物があるのでなく、市場で魅力的な商品を見つけたときに買う。
②予め購入したい物を決めておき、少しでも安く売っている店を探して買う。
③美しさや面白さが欲望の対象となっており、価格がどうか気にしない。
④自分がほしいものが何かわからず、お店の人やセールスの人に左右されやすい。
2、「そこではあたかも芸術の鑑賞者と同じく、消費者もまた自分が何を好んでいたかに気づくのであって」とあるが、現代の消費者のどんな点が芸術の鑑賞者と同じなのか。
①創造的で、効率を計りにくい仕事が重要になった点。
②基礎的な欲望をより安く効率的に達成jしようとする点。
③自分が欲していたものを、対象との出会いを通して発見する点。
④人間の欲望と趣味を探し求めている実験室である点。