イタリアにも、トスカーナ州やマルケ州などを中心に、都市が緑や田園、山並みと一体となって構成する、息をのむような美しい風景が、それこそ無数に存在する。しかし、注意すべきなのは、これらは自然風景ではないということである。緑は人間が植林したものであるし、田園も農業という人為的行為によってつくられたものだ。
それに比べて、日本は国土の67%が森林で、うち55%は天然林、つまり原子から受け継がれた森である。このことは、日本とイタリアによける風景の考え方に大きく関係している。例をひとつ挙げよう。イタリアのオルチア
渓谷と同様に、2004年に世界文化遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」では、オルチア渓谷の人工美とは対照的に、太古の昔から自然信仰の精神を育んできた紀伊山地の神格化された山や森が、文化的景観の重要な要素となっている。
また、日本の代表的農耕の水田耕作は、自然を改変するとはいえ、水を引いて新たな生態系を育むタイプのものだ。開墾され「文明化」した平野部でも、稲作を媒介に人と自然が関わり合う四季折々の営みが、味わい深い風景をつくりあげている。
(民岡順朗「絵になるまちをつくる」より)
1、この文章から、日本とイタリアのどのような違いがわかるか。
①日本には自然保護の思想があるが、イタリアにはない。
②イタリアには自然保護の思想があるが、日本にはない。
③日本は人間の手で自然を作り変えるが、イタリアはそのまま残そうとする。
④イタリアは人間の手で自然を作り変えるが、日本はそのまま残そうとする。
2、本文中に書かれている内容と合っていないものはどれか。
①日本人は原始から受け継がれた森林を守るために、自然を改変してまで水田や畑をつくることはしなかった。
②イタリアの美しい風景は、植林や農業などの人間の営みによって、時間をかけて形成されたものである。
③「紀伊山地の霊場と参詣道」は、原始から受け継がれた山や森が、文化的景観の重要な要素となっている。
④日本の代表的農耕の水田耕作は、自然を改変することになるが、一方では新たな生態系を育むものだ。