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「卵」
日期:2017-09-06 09:52  点击:401
我家ではここ二年、小学4年生の息子と小学2年生の娘の情操教育という名目のもと人間以外の生き物が毎年1種類ずつ増えている。
二年前に娘が庭で捕まえたアマガエルを飼いたいと言い出したのに始まり、一年前には旅先で捕まえたカニを息子がどうしても持って帰ると言ってきかず、どちらもその日のうちに家族の一員となり、現在我家で元気に暮らしている。
経験のある方はわかると思うが、野生の生き物を飼うということはそう簡単ではない。
特に、生き餌しか食べないアマガエルは苦労した。
「信じられない」と言う妻のヒンシュクを買いながら、保温器でショウジョウバエを養殖して餌として与えながら、少しずつ人工飼料に慣らしていった。
こうなると子どもの手には負えないので、アマガエルの飼育は私の仕事・・・というか趣味になり、カニはそれほど手がかからないので息子が世話をしている。
そして先月の初めの土曜日、その息子がこれまでにない難題を持ち込んできた。
友達数人と遊びに行った近くの牧場からチャボの卵をもらって帰ってきたのだ。
軍手に包んだ卵を大事そうに抱えて「あたためてかえす!」と宣言する。
「孵すって言うてもなぁ、有精卵かどうかもわからんし・・・」
「ユーセーランやと思うって牧場のおばちゃん言うてたで。ユーセーランってなに?」
そう言って不安そうに私を見る。
「卵には有精卵と無精卵とがあって、ヒヨコがうまれるのが有精卵、うまれないのが無精卵」
「やったぁ! じゃあ、うまれるんや! ラッキー! ユーセーラン! ユーセーラン!」
息子は卵を掲げて喜んでいる。孵す気満々である。
実は私も子供の頃、今の息子と同じように卵をあたためて孵そうとしたことがある。
私の場合は養鶏場からもらった無精卵だったので孵るはずもなかったのだが、息子の卵は有精卵の可能性が高いようだ。うまくいけば孵せるんじゃないか…。
私は「さぁて、どうするかな?」と言いながらも、すでに頭の中ではどうやって孵化させるかを考え始めていた。これが生き物好きの性というやつだ。
妻は私の考えを察知して「ちょっと、どうするつもり?」と心配そうな視線を投げてくる。
「とりあえず、どうやったら卵が孵るのか調べてみよう。多分素人には難しいと思うけど」
私はそう言いながらパソコンで「鶏 卵 孵化」と検索する。こんなときはインターネット様々である。
結果は予想通り、人工孵化は簡単ではないようだ。孵化まで温度を38℃前後に保った状態で約21日間かかるらしい。しかもその間に癒着が起きないように、転卵といって数時間ごとに卵を90度回転させる必要があるというのだ。
親鳥は体温が40℃位あって、実際に抱卵しながらちゃんと転卵もしているという。
息子にはそのことを説明し人工孵化の難しさを言い聞かせたが、「ぜったいかえしたい。お父さんなんとかして」といって譲らない。
ここまで頼まれれば生き物好きの父親としては、何とかしてやりたいと思ってしまう。
温度管理はアマガエルの餌用のハエを養殖していた保温器を使えば何とかなるかもしれないが、問題は転卵だ。妻の出勤前や子供の帰宅時、私の就寝前など家族で転卵当番を割り振れば大方の時間はカバーできるが、どうしても夜中に一度は誰かが起きなければならない。
「お前が起きてちゃんと転卵できるんやったら、みんな協力する」
自分が卵を孵したいと言った責任を果たさせる為に息子にそう言うと、彼は力強く頷いた。
こうして我家では家族4人で1つの卵を見守る日々が始まった訳だが、その翌日、地域の集会で私はある事実を知って
衝撃を受けた。息子は友達数人と牧場へ行きそこで卵をもらってきたのだが、その時一緒に行った友達も皆同じように卵をもらって帰ったというので、集会の合間にその親御さん達に卵のことを聞くと、全員その晩に食べてしまったと言うのだ。卵を孵すことで頭が一杯の私はそれを聞いて愕然としたが、反対に息子の友達の親御さんたちは、我家が卵を孵そうとしていることに大変驚いていた。
よく考えてみればこの親御さんの反応が普通なのかもしれない。卵は食べるもので、孵すものではないのだ。
しかし、だからといって今さら食べる気にもならない。逆に変な意地のようなものが湧いてきて「よし、ウチは絶対孵したろう」と家族で誓いを立てた。
それから皆で協力し、息子も毎晩夜中に眠い目をこすりながらもちゃんと卵を回し続けた。
そしてちょうど21日後、意地が通じたのか、奇跡的に息子が持ち帰った小さな卵から無事に可愛い雛が誕生した。殻が割れ、ピーピーと鳴きながら必死に殻から出てくる雛の姿を家族全員で見ることができた。
生き物に慣れ親しんでいる私も思いがけず感動した。そして何より子どもたちに、言葉だけでは教えられない貴重な体験をさせてあげられたことが、とても嬉しかった。
私がこの文章を書いている今、子どもたちはゴマちゃんと名付けたチャボの雛の世話を私に託し、妻の実家がある東京に行っている。
今は何でもいい、ひとつでも多くいろんな体験をしてほしいと思う。
しばらくすれば、ほんのり都会の匂いまとって帰ってくるのだろう。
そして、鶏冠も生え、もうヒヨコとは言いがたいほど大きくなったゴマちゃんを見て、きっと目を丸くすることだろう。

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