「ねえママ、これって加齢臭だよね」
小学4年生の娘が、パパが朝まで寝ていた枕を持って来て耳元で言った。
二つの驚き
娘がそんなことを言う年頃に、そして
パパも加齢臭を出す年頃になったこと。
同じ「年頃」なのに、成長と衰退を証明してるみたいで複雑だった。
パパは単身赴任だから、たまに帰ってくると娘を抱きしめる。
でもたまにだからこそ匂うのだ。
「パパやめてよ!臭い!」
今までにない娘の態度に、パパの手が一瞬止まった。
そろそろ思春期の入り口。
誰でも通る道…でも、うちの子はきっと大丈夫。
そんな淡い期待を抱いていた。
だって、つい最近までパパが帰って来ると娘は迷わず飛びついた。
お風呂でパパが「ずっと一緒に入ってくれる?」と聞けば
必ず「うん」って答えた娘。
でも、今「わからない」と言う。
その日パパはなぜか変だった。
いつもはゴロゴロして、娘がせがんでも寝ているのに、積極的に娘の相手をしている。
買い物に行けば、ねだられて娘の好きな物を買わされる。
お馬さんごっこはいつもの10倍。
加齢臭のしみこんだ枕投げは何時間も続いた。
パパの額から汗が流れ落ちる。もう冬なのに。
こりゃ、焦ってるな。
「パパ臭―い!すごい汗!」息を切らして走って来た娘が言った。
私はパパの焦りと努力を称えてこう言った
「一生懸命なんじゃない?」
「なんで?」
「なんでだろうね?」
パパが赴任先に帰って行った。
娘も疲れ果てて眠ってしまった。
次の日、パパの枕カバーを洗おうとすると、
娘がそっとやってきてカバーを掴んだ。
「どうしたの?」
娘の目に溢れる涙。
「洗っちゃだめ」
「なんで?」
「一生懸命の匂いだから」
枕を抱きしめながら娘が呟く。
「パパ、今度いつ帰ってくるのかなあ」
加齢臭は衰退の匂いじゃない。
一生懸命家族を守ってきた証の香りだ。
臭さがしみ出るほど、人生頑張って来たんだね
パパ、ありがとね