四十を過ぎて、気づいたことがあった。それは、自分が父に似てきたという恐るべき事実 である。
幼少期から自分はずっと母に似ていると思って生きてきた。手足の形や目元、低い鼻も母
親譲りだ。父に似ていたのは、せいぜい声くらい。でも、それでいいと思っていた。いや、
それだからいいと思っていた。
ところがある日、汗をかいた自分の体臭に「あれっ?」と思った。まさかと思い寝室の枕
にも鼻を近づけてみて、愕然とした。
「なんだ、この臭いは!」
それは、父とまったく同じ臭いだった。脂ぎった、どうしようもなくクサイ臭い。かつて
家中が毛嫌いしていたあの臭いだ。私のかぐわしき?加齢臭は父のそれと同じだったのだ。
まだある。
鏡に映る自分の姿だ。ちょっと丸まった背の立ち姿や、何気なく振り返ったときの仕草、
からだ全体から醸し出される雰囲気が、恐ろしいほど父にソックリだった。
いつの間にこんなに似てきてしまったのだろう。
中年になり、薄くなった頭髪に幾分たるんできた頬の肉。あろうことか、全然似ていない
と思っていた顔まで似てきてしまっているではないか。
ああ、嫌だ、嫌だ。父に似た薄汚いおっさんになっている。
まだある。
母の血液型はAB型で、父はO型、私はB型である。マイペースでおっとりした性格は母
親似だろう。しかし、最近は自分で言うのも何だが、少し卑屈になってきたかもしれない。
そう、それは、間違いなく昔から愚痴ばかりこぼしていた父の性格なのだ。喝っ!
アダムとイブが禁断の果実を食べたからか、はたまた、DNAの果てしなき計略か。
とにかく、母親似だと安心していた私も、DNAの半分はしっかりと父から受け継いでい
るらしいことが、おっさんになり判明した。
良いとこ、悪いとこ、外見、内面、体質に至るまで、誰も彼もが両親から受け継いでいる。
私は紛れもなく、この父と母の子だった。
親子の日に三人で乾杯でもするか。なあ、オヤジ。