お腹の中の、子供が死んだ。
まだ13週だった。
病院で「経過は順調ですね」と言われた、その日の午後に、突然破水してそのまま流産した。
弟か妹が産まれると楽しみにしていた8歳の娘に、
「赤ちゃんがね、いなくなっちゃったんだよ」と伝えた。
娘は、何も言わず、何も聞かず、ただ黙って少しだけ泣いた。
あの日を境に、世界のすべての色が、ワントーン暗くなった。
おいしいものを食べても、綺麗な景色を見ても、楽しいことに笑っても、
何色を塗り重ねても、世界は元に戻らない。
それでも私は、なんとか元通りにしようと、いろいろなことを試してみた。試しながら、すべては無駄なのだと気づいていた。だから、試すたびに、少しずつ擦り減っていった。
ある日、娘が学校で折った折り紙を持って帰ってきた。
小さな扇と小さなピアノを、4つずつ。
細かい部分まで丁寧に折られている。三年生にもなるとずいぶん手先が器用になるものだな、と感心しながら眺めていると、娘は誇らしげに、
「パパとね、ママとね、私と、しょうちゃんの分よ」
と言う。
しょうちゃんというのは、亡くなった赤ちゃんの名前だ。
男の子だったその子のために、娘が選んでつけた名前。
特別なことではなく、ごくごく当たり前のように、家族全員のために折ったのだという。だから、4つ並べて飾ってほしいと、嬉しそうに言う。
驚いた。そして、涙が出た。
折り紙を並べながら、
「しょうちゃん、帰ってきてくれるかな」
と娘に問うと、
娘は、ママ、何を言っているの?という顔をする。
「ママ。しょうちゃんは、ここにいるよ」
しょうちゃんは、どこにもいかないよ。
家族だから。
と教えてくれる。
ああ、と声をあげ、私は娘を抱きしめて泣く。
泣きながら、その答えが正しいことを知る。
世界の色を、塗り直しに行こう。
パパと、ママと、あなたとしょうちゃんと。
前と同じにはならないけれど、新しい世界に、新しい色を塗ろう。
新しい世界の、新しい家族になろう。