母は父の死をきっかけに認知症となり、2年前夜道に出たところでつまづき、大腿骨を骨折。これを機に、介護施設に入居している。
入居まもなくして施設の男性職員の方を「社長!」と呼ぶようになった、皆なぜ母がそう呼ぶのか最初わからなかったが、認知症となり名前を覚えられず母なりに考えた苦肉の策なのであろう。
車椅子に乗っているものの母は施設内一元気、今日も母の「社長!!」の声に皆苦笑いしながらも「はい!!」と答えてくれる優しい方たちばかり。
いつものように姉・兄・妹と食事を済ませ、母の部屋に行くと、母のベッドの脇のカレンダーに「やまむら」と、か細いえんぴつの文字が。
枕を直していると枕の下からは、私が母宛てに出した手紙の封筒が、裏には「やまむら」とある。
さすがに「やまむらさんてだーれ?」と聞くと、母ははにかんで、照れくさそうに「19歳のおとこん子、よーくしてくれるの、名前忘れないように。。。」と、まるでその70歳年下の19歳の男性職員に恋でもしているかのようでいじらしく、娘としてはその先は聞くことが出来なかった。
何でもいい、誰でもいいです、母の心を動かして楽しい気持ちにしてくれるのであれば。
「やまむらさん」母のことよろしくお願いいたします。