人間には、いく度か知識欲の昂揚期というのがあるらしい。その第一期とも呼ぶべき時期は、二歳後半から四歳ぐらいにかけてだろうか。とにかく、何でも質問したがる時期らしい。
たかがガキとあなどってはいけない。夕食の会話中だとか、風呂の中だとかで、ぼくはそれが、しっかりとヤツらの中で花になり、実になっていることを実感する。しかも、ちゃんとTPOに合わせた心にくいばかりの実践ぶりだ。
先達ってこんなことがあった。
久しぶりに家族ででかけた折、外国人の家族と一緒になった。その中にかわいい金髪の女の子がいた。彼女を見るや三人のガキ共は さっそく好奇心をそそられたらしい。おもむろに近づいていくと、ヒロスケが話しかけた。全く女には手がはやいのだ。
「いくつ?」
「どこかち来たの?」
「名前は?」
しかし、むこうは知らんぷりだ。勿論、相手は何をいわれているのか理解できていないのだが、尋ねたヒロスケはそれが面白くない。何とかして気を引くべく、常日頃のピエロぶりを発揮する。すると今までだまっていたヨーヘイ、兄貴らしく、諭すようにのたまった。
「日本語じゃだめだ! ヒロ、英語でなきゃ!」
「英語って何だ?」
「うーんと、ホラ、A、B、Cってあるだろ!」
「あっ、ABCか.ABCね」
かくて、ヒロスケはこれを素直に実践にうつし、女の子に向っていわく。
「A? B? C?」
「・・・・?」
「A? B? C?」
「Go away !」
まさに、『学ぶ』の語源、『まねぶ』を地でいくような何ともはや漫才みたいな話だが、子どもは学んだことをすぐに試すものらしい。そして、失敗をくり返す。だが、くり返しながら学んでもいくのだろう。