デパートで試食を貰えば、何度も落っことして何回も貰いなおして、
ファミレスでトイレに行けば、間違えて隣のテーブルに座ったりして、
吃音症持ちだから、何度も何度も同じ言葉繰り返したりして。
小さいころから、そんなかっこ悪い父が苦手だった。
私の父は、つまらない。
流行りおもちゃもマンガも知らなくて、
ジョークも言わないし滅多に笑わなくて、
しつけに厳しくて、ベランダに放り投げられたりして。
中学生になったころには、父と顔も会わせなくなっていた。
私と父は、さよならをした。
高校になって、私は母に連れられて家を出た。
狭い部屋に一人でいる日々が続いた。
なんだか無性に父に会いたくなった。
いつも整髪料とタバコの臭いがして、水虫の足が汚くて、
良い所なんか1つもなかったはずなのに。
それでも、思い出す景色はたくさんある。
動物園で肩車してくれたこと。
魚釣りに連れてってくれたこと。
コタツで一緒にお昼寝したこと。
会社から帰ってきて、一人でさみしく晩ごはんを食べていた背中。
お家を出ていく日に、泣くのをこらえていた、しわしわの顔。
私と父は、再会した。
ちゃんと顔を見て話すのが久しぶりで、恥ずかしかった。
父も恥ずかしそうだった。
私は少し太ったのに、父は少し痩せていた。
「元気か」なんて聞くから、なんか涙が出た。
私と父は、たくさん後悔した。
なんであの時もっと素直になれなかったのだろう。
なんであの時もっと優しくできなかったのだろう。
なんであの時、ごめんと言えなかったのだろう。
たくさんたくさん、なんでなんでと後悔して、それから。
私と父は、スタートラインに立った。
過去のやり直しはできないから、ここから始めようと決めた。
過去は水には流れないから、ここから今を作っていこうと決めた。
そうして、たくさんの私と父でありたいと、思った。
私の父は、かっこ悪いし、私の父は、つまらない。
それでも、私は父が、大好き。