むかしむかし、とてもゆうかんな双子(ふたご)の若者がいました。
ある日の夕方、双子の若者が町の用事をすませて、大きな森の道を家へとむかっていると、どこからかかわいらしい笑い声が聞こえてきました。
双子の若者が声の方に行ってみると、それは花のように美しい、双子の妖精(ようせい)でした。
双子の妖精は、双子の若者に言いました。
「もし、私たちと結婚してくださるのなら、あなた方をとても幸せに、そしてあなた方のように、勇気のある息子をうみましょう」
双子の若者は喜んで、兄さんは姉さんの妖精と、弟は妹の妖精と結婚する約束をしました。
双子の妖精はうれしそうに、双子の兄弟を見つめていいました。
「夜明けまでに、森の入口にある教会へいらしてください。結婚式をあげましょう。けれども、水一滴、パン一きれ、何一つ食べずに来てくださいね。約束を守ってくださらなければ、不幸(ふこう)なことが起こります」
「わかりました。そんな約束ぐらい、なんでもありません」
双子の若者は家にもどると結婚式の準備をして、お母さんに夕食をすすめられても、水一滴飲みませんでした。
そして夜中の二時になると、双子の若者はこっそり家を抜け出して、約束の教会に向かいました。
でも途中の畑の道で、弟は大ムギの一粒をとって、よく実っているかどうか歯でかんで試してみようと、口に入れてしまったのです。
教会につくと、妹の妖精はかなしそうな顔で弟に言いました。
「ざんねんです。あなたは私との約束を守ってくれませんでした。結婚できれば私は人間の娘になり、あなたに幸せのすべてをあげられたのに」
そして妹の妖精は、森にさしこむ月の光の中に消えてしまいました。
弟は、悲しそうに言いました。
「私はこれから旅に出ます。兄さん、幸せになってください」
そしてそのまま、教会を出て行きました。
双子の兄さんと双子の妖精の姉さんは、弟を見送ると結婚式をあげました。
そして結婚式のあと、妖精は兄さんにたのみました。
「これから先どんなことがあっても、私のことを気が変だとか、妖精だとか言わないでくださいね」
「そんなことは言うものか」
兄さんは、やさしく妖精をだきしめました。
主人となった兄さんと、奥さんになった妖精は、とても仲良くくらしました。
それから七年がたち、二人は大きな屋敷で七人の元気な男の子を育てていました。
ある日、主人は町へ出かける用事ができました。
妖精は、その留守に空を見上げると、畑で働く人たちに向かって言いました。
「みんな、もうすぐ嵐(あらし)が来ます。すぐにムギをかりいれなさい」
けれど、畑の人たちは口々に言いました。
「奥さま、こんないい天気の日には、嵐なんぞ来ませんよ。それにムギの刈りいれは一週間先の方が、もっとパンパンにふくらんで、いいムギになります」
でも妖精は、
「それでも、かりいれなさい」
と、ゆずらないので、畑の人たちは仕方なくかりいれを始めました。
そこへ、主人が帰ってきました。
畑の人たちからわけを聞くと、怒って奥さんにこう言ってしまったのです。
「こんなに空が青いのに、なんてことを言うのだ。お前は変なんじゃないのか!」
そのとたん、奥さんの顔色が変わりました。
「あなた、そのことばは言わないでって、お願いしたのに!」
そして妖精の奥さんは風に乗って、空へと飛んで行ってしまいました。
そのあと、空にはまっ黒な雲が広がり、カミナリが鳴りひびいたかと思うと、こうずいになりそうなほどの大雨がふったのです。
主人は妖精を探して、さまよい歩きました。
けれどどうしても、妖精を見つけることはできません。
七人の息子たちは、お母さんを恋しがって泣きました。
何日かたった夜明け、七人の息子たちのところへ妖精がやって来ました。
そして、金のくしで一人ずつ髪をといてやりました。
「お母さんがこうして会いに来ることは、絶対にひみつですよ。もし誰かほかの人に知れたら、もう会えなくなるのですよ」
七人の息子たちは、その約束を守りました。
けれども、いつも髪の毛がきれいになっている息子たちを不思議に思い、主人は夜明けに、こっそり子ども部屋をのぞきました。
すると妖精が来ていたので、主人は子ども部屋にとび込んで、ひざまずきました。
「どうか、このままここにいておくれ!」
妖精はさけび声をあげて、どこかへ逃げていきました。
それから、二度と姿を見せることはありませんでした。