むかしむかし、あるところに、とてものんきな人がいました。
ある日、その人が一人で旅に出かけましたが、歩いていくうちに日がくれてきたので、一件の宿屋を見つけて、
「こんばんは、とめておくれよ」
と、入っていいました。
「あいにく、空いた部屋がありません。ほかの方と二人一緒でもいいですか?」
「しかたがない、それでもいいよ」
宿屋の主人に案内されて、入った部屋にはベッドが二つあり、先にきていたお客は、もうねむっていました。
顔中がまっ黒で、ヒゲがモジャモジャです。
「あははは。ひげだらけで、まるでクマみたいだ」
のんき屋はねている客を見て笑うと、宿屋の主人に、
「明日の朝は、七時におこしておくれ」
と、いって、ベッドに入りました。
夜もふけたころ、イタズラ好きの宿の主人が、そっと部屋に入ってきました。
「人の顔を、ひげだらけのクマだなんていう人は、自分もひげだらけになるがいい」
主人は炭で、のんき屋さんの顔をまっ黒にぬりました。
さてあくる朝、宿の主人が部屋の外からのんき屋さんをよびました。
「七時です。お客さん、おきてください」
目をさましたのんき屋さんは、ベッドをおりると、服をきがえて部屋のすみのカガミを見ました。
するとそこには、まっ黒なひげだらけの顔がうつっています。
それが自分の顔だとは気がつかないのんき屋さんは、
「あれ?、こいつはだれだろうか? ???ああ、わかったぞ。宿屋の主人は、わしを起こすのをまちがえて、ひげさんの方を起こしたんだ。じゃあ、わしはまだねむっていていいんだ」
そうつぶやいて服をぬぐと、またベッドにもぐりこんでねてしまいました。