むかしむかし、たくさんのヤギを飼っているおじいさんがいました。
おじいさんはヤギの世話をさせるために、一人の男の子をやといました。
その子は、不思議な魔法の笛(ふえ)を持っていました。
男の子がその笛をふきはじめると、みんなおどりだして、倒れるまでおどりつづけるというのです。
さて、おじいさんは男の子に、ヤギを森へ連れていかせました。
「笛なんかふいていないで、しっかりヤギに食べさせるんだぞ」
おじいさんはそういって、男の子を送りだしました。
日がくれると、男の子はヤギをおって帰ってきました。
むかえに出たおじいさんは、ビックリしていいました。
「どうしたんだ。見ろ、ヤギたちはヘトヘトになっている。いったい何を食べさせたんだ?」
「はい。おいしい若木の枝を、たっぷり食べさせましたよ」
と、男の子は答えました。
次の日も、その次の日も同じで、ヤギはますますやせていきました。
おじいさんは、もう心配でなりません。
そこである日、こっそりと男の子のあとをつけていきました。
そしてやぶのかげにかくれてのぞいていると、男の子は若木の枝をたくさん切って、ヤギたちにやりました。
ヤギたちはおいしそうに音をたてて、若木の枝を食べ始めました。
すると男の子は、木のきりかぶに腰をかけて、笛をとりだしました。
笛の音がひびいてくると、ヤギたちは食べていた若木の枝をほうりだしておどりはじめました。
やぶのかげにかくれていたおじいさんのところにも、笛の音が聞こえてきました。
おじいさんも、がまんができなくなりました。
手をふり、足をあげて、おどりだしました。
ノバラのトゲにひっかかって、たちまち着物がボロボロになりました。
おじいさんは、泣きながらいいました。
「やめてくれ、やめてくれ」
「やめたくても、笛がだまってくれません」
と、男の子はいいました。
おじいさんもヤギも、おどりつづけました。
家では、おばあさんがおじいさんの帰りを待っていました。
おばあさんは、とうとう待ちきれなくなって、
「ちょっと、見に行ってこようかね」
と、いって、森へ出かけていきました。
見ると男の子が笛をふき、ヤギもおじいさんもおどっています。
「まあ、あんなところでおどりをおどったりして!」
と、おばあさんはさけびました。
笛の音は、いっそう高くひびきました。
やがておばあさんも、手をふり、足をあげて、おどりだしました。
待っても待っても、おじいさんとおばあさんは帰ってきません。
今度は、息子が見にいきました。
男の子が笛をふいて、ヤギがとびはね、おじいさんもおばあさんもおどっています。
息子は大声で、
「あんなところで、おどりをおどっている!」
と、さけびました。
けれども笛の音は、もっともっと高くひびきました。
息子もがまんができなくなって、おどりだしました。
おじいさんも、おばあさんも、息子も、帰ってきません。
今度は、お嫁さんが見にいきました。
そして、お嫁さんもおどりだしました。
家では、おじいさんのまごたちが、みんなの帰りを待っていました。
けれども、おじいさんも、おばあさんも、お父さんも、お母さんも、帰ってきません。
とうとう子どもたちは、森へ行ってみることにしました。
見ると男の子が笛をふいて、そのまわりをヤギも、おじいさんも、おばあさんも、お父さんも、お母さんも、おどっています。
「やあ、楽しそうだ。ぼくたちもおどろうよ」
おじいさんのまごも、おどりの輪の中にとびこみました。
やがて日がくれると、みんなはおどりながら村へ帰りました。
男の子の笛の音が、村中にひびきました。
それを聞いた村の人たちの手足も、ひとりでに動きだしました。
とうとう村中が、大きな輪になっておどりだしました。
人間も、ウシも、ウマも、ネコも、ニワトリも。朝から晩までおどりつづけました。