むかしむかし、風さんの子どもがかぜをこじらせて、死んでしまいました。
かわいい息子をなくした風さんは、来る日も来る日も悲しみにくれていました。
すっかり元気をなくしてしまった風さんは、それから七年間、吹く事をわすれてしまいました。
風が吹かない七年もの間に、クモが世界中をおおってしまうほど大きな大きな巣をつくってしまいました。
風が吹かなくて息苦しいので、ウシやウマやニワトリたちがバタバタとたおれてしまいました。
「風さんが吹かないと、大変な事になる。なんとか風さんに、むかしのように元気になってもらわないと」
みんなそう考えましたが、悲しみにくれている風さんをなぐさめる事は出来ませんでした。
ある日、風さんのところにオンドリがやってきました。
「やあ、風さん。
いったいいつまで、悲しんでいるんだい。
いいかげん、クヨクヨするのはやめなよ。
ぼくの子どもは毎日たくさん生まれてくるけれど、でもすぐにいなくなってしまうんだよ。
でもぼくは、いつも元気にしているよ。
どんなに元気か、見てごらん」
こう言うと、オンドリはかべの上に飛び上がって、
「コケコッコー!」
と、大きな声をはり上げました。
それを聞いて、風さんは思わず笑い出しました。
そのしゅんかん、たちまち木の葉がサラサラとゆれはじめ、花はニッコリ開いてあまいかおりが広がりました。
こうして風は、またむかしと同じようにソヨソヨと吹きはじめました。