むかしむかし、とても働き者のお母さんがいました。
お母さんには、ウラジスラフと言う名前の一人息子がいます。
ある日、お母さんが野イチゴをバケツ一杯につんで帰ろうとすると、森の道に見た事のないおばあさんが座っていました。
「どうか、その野イチゴをめぐんでくれないかね」
おばあさんは、とても喉が渇いている様子なので、
「はい、いいですよ。どうぞ」
と、お母さんは野イチゴを、バケツごとあげました。
おばあさんは野イチゴを全部食べ終わると、お母さんに言いました。
「ありがとうよ。お礼に、良い事を教えてやろう。あんたの息子は、一番好きな事を仕事をすれば幸せになれるよ」
「えっ? それは、どんな仕事ですか?」
お母さんが聞いた時には、おばあさんの姿は消えていました。
ただ、今までおばあさんが座っていた石の上から、一匹のトカゲが走って行くのが見えました。
「ああ、今のおばあさんは、きっと魔法使いだったんだね」
お母さんはそう思うとうれしくなり、急いで家に帰りました。
さっそくお母さんは息子のウラジスラフに、服を作る仕立屋(したてや)と、クツ屋と、剣を作る鍛冶屋(かじや)へ仕事に行かせました。
でもウラジスラフは、いつもこう思っていました。
「どの仕事も、金持ちが喜ぶだけさ。ぼくはもっと、別の仕事がしたい」
その頃この国では、金銀の糸でししゅうのある服を着るのはお金持ちだけで、貧乏人は一年中、ボロボロの服でした。
クツをはけるのもお金持ちで、貧乏人は裸足(はだし)でした。
剣を持って戦いに行くのはお金持ちでしたし、ウラジスラフは何よりも戦争が嫌いでしたから、剣は作りたくなかったのです。
「それならお前は、何の仕事がしたいのかい? 一番好きな仕事をすれば幸せになれるって、魔法使いが言ったんだよ」
「それならぼくは、ウシ飼いがやりたいよ」
こうしてウラジスラフは牧場へ働きに行き、草笛(くさぶえ)を吹きながら、のんびりとウシ飼いの仕事を始めました。
そんなある日の事、ウシを連れて森へ行くと火が見えました。
「大変だ! 火事かもしれない!」
急いで行ってみると、たくさんのトカゲが火に囲まれているではありませんか。
「待っていろよ、いま助けてやるからな」
ウラジスラフは火を足で消して、トカゲを助けてやりました。
すると中の一匹が、おばあさんの姿になって言いました。
「思った通り、あんたは優しくて勇気のある子だ。助けてもらったお礼をしよう。トカゲたちにウシの番をさせるから、あたしについておいで」
ウラジスラフがおばあさんに連れて行かれたのは、小さなほら穴の中でした。
そこには二つの宝石箱があって、一つはルビー。一つはサファイアが詰まっています。
そしてその奥には、金のリンゴが実っているリンゴの木がありました。
「いいかい。
ルビーを選んだら、あんたは世界で一番美しい人になるだろう。
サファイアを選んだら、世界一金持ちで偉くなるだろう。
金のリンゴの木を選んだら、貧乏なままだ。
でも、リンゴの実をただで病気の人に分けてやれば、病気が治って喜ばれるだろう。
さあ、どれでも好きなのを一つ持って行くといいよ」
(うーん。美しくなるよりも、金持ちで偉くなるよりも、人に喜ばれた方がいいな)
ウラジスラフは迷わず、金のリンゴの木を選びました。
その途端、金のリンゴの木は根っこをメリメリッと地面から抜くと、ウラジスラフについて来ました。
ウラジスラフは金のリンゴの木を、家の庭に植えました。
「まあ、何て見事なリンゴの木だろ。こんなリンゴの木は見た事ないよ」
お母さんはウラジスラフの話を聞くと、目を丸くしてとても喜びました。
金のリンゴの木は枯れる事なく、毎日キラキラと金色のリンゴの実をつけました。
ウラジスラフはトカゲのおばあさんに聞かされた通り、村中の病気の人に金のリンゴを分けてあげました。
すると本当に金のリンゴを食べた途端、どんなにひどい病気の人もうその様に元気になったのです。
ある時、クマに襲われて死にそうな猟師が、ウラジスラフの家に運ばれて来ました。
「これはひどい。待っていて下さいね」
金のリンゴは一つしか実っていなかったのですが、ウラジスラフはそれをもいで食べさせようとしました。
ところがそこヘ、ウラジスラフのうわさを聞いて、お城の王さまが来たのです。
王さまは、いばって言いました。
「わしは、鼻カゼをひいておる。わしに金のリンゴをよこせ」
ウラジスラフは、きっぱりと断りました。
「金のリンゴは一つしかありません。鼻カゼは、いずれ治るでしょうが、猟師は今、死にかかっているのです。金のリンゴは猟師に食べさせます」
そして猟師に金のリンゴを食べさせるのを見ると、王さまは怒って金のリンゴの木を引っこ抜き、城の庭に植える様に家来に命じました。
金のリンゴの木は引き抜かれない様にと頑張って根をはりましたが、何十人もの家来の力にはかなわず、とうとう引っこ抜かれてお城に連れて行かれました。
ウラジスラフは森へ走って行き、洞穴を探すとトカゲのおばあさんを呼びました。
「おばあさん、大変なんだ。金のリンゴの木が王さまに」
訳を聞いた、トカゲのおばあさんは、
「それなら、このナシの木を持ってお行き」
と、色々な色のナシの実がなっている木をくれました。
「緑のナシを食べると、おでこからツノが生える。
赤いナシを食べれば、それのツノが落ちる。
青いナシを食べると、鼻が大きくなる。
黄色いナシを食べれば、元通りになるのさ。
よく覚えておくのだよ」
ウラジスラフは、色々な色のナシの木を連れて城へ行きました。
「まあ、きれいなナシ」
「一つ、分けてくださいな」
お城の召使いやお姫さまは、みんな色々な色のナシの木から、緑や青のナシをもいで食べました。
王さまも、緑のナシを食べました。
その途端、みんなのおでこからツノが生えたり鼻が大きくなったりで、大騒ぎになりました。
「これ、このツノを取ってくれ」
王さまが頼むので、ウラジスラフは、
「いいですよ。もし、リンゴの木を返してくれるなら」
と、言いました。
「わかった。持って行け!」
王さまがそう言うので、ウラジスラフは王さまに赤いナシを渡して、みんなにも元通りになるナシをあげました。
それからウラジスラフは庭へ行き、金のリンゴの木を見つけました。
でも、金のリンゴの木は枯れてしまい、黒くなっています。
「遅くなって、ごめんね。さあ、家へ帰ろう」
ウラジスラフはそう言って、地面から金のリンゴの木を引き抜きました。
するとたちまち金のリンゴの木は光り出して、ウラジスラフが歩き出すと、うれしそうについて行ったのです。
そしてウラジスラフが自分の庭に植えると、金のリンゴの木は前よりももっとたくさんの金のリンゴの実をつけました。
金のリンゴのおかげで、ウラジスラフは村の人たちにとても喜ばれて、本当に幸せに暮らしました。