むかしむかし、一羽のひな鳥がお母さん鳥に、
「お母さん。あたしケーキが食べたい」
と、おねだりしました。
お母さん鳥は、すぐに聞き入れて、
「いいわ。その代わりお隣ヘ行って、人間が捨てた、まきのはしっこを拾って来ておくれ。それで、ケーキを焼いてあげるからね」
と、言いました。
ひな鳥は、お隣ヘ出かけていきました。
そして、まきのはしっこを、二つ三つ見つけて、持って帰ろうとしました。
ところが、その時です。
一匹の年取ったネコが、ひな鳥を見つけてこっちへやって来ました。
ネコは、ひな鳥のそばまで来ると、
「お前を、食べてやる!」
と、おどかしました。
ひな鳥は、
「どうか、あたしを逃がしてちょうだい。そうすれば、あたしのケーキを少し分けてあげるわ」
と、一生懸命頼みました。
するとネコは、
「いいだろう。約束だぞ」
と、言って、そのままどこかヘ行ってしまいました。
ひな鳥は、急いで家ヘ帰りました。
そして、お母さん鳥に、
「とっても、こわいめにあったのよ」
と、さっきの出来事を話しました。
「心配しなくてもいいよ」
と、お母さん鳥はいい聞かせました。
「お母さんが、今すぐ大きな大きなケーキを焼いてあげるからね。
そうすれば、おまえが食べても、まだそのネコにあげる分が残るでしょ」
やがて、大きな大きなケーキが焼けました。
お母さん鳥は、それをひな鳥にやりながら、
「さっきのネコにやる分を、残しておくのよ」
と、念を押しました。
でも、そのケーキがとてもおいしかったので、食いしん坊のひな鳥は、みんな食べてしまいました。
「食いしん坊ねえ、お前は!」
と、お母さん鳥は、ひな鳥をしかりました。
「大丈夫よ。きっと、ネコは忘れているわ。それに、あたしたちの住んでいるところだって、知らないんですもの」
と、ひな鳥は、のんきに言いました。
ところが、向こうの方から、あのネコがやって来るではありませんか。
さあ、大変です。
ひな鳥は、ブルブル震えながら、
「お母さん、どうしたらいい?」
と、聞きました。
「お母さんに、ついておいで」
お母さん鳥とひな鳥は、お隣の台所に飛び込んで、そこにあった大きなツボの中に隠れました。
けれどもネコは、二人が台所へ逃げ込んだのを、ちゃんと知っていました。
ネコは、大きな声で怒鳴りました。
「やい、食いしん坊のひな鳥め。おれにくれるケーキはどこにあるんだ?
出て来い。
出て来ないなら、お前たちを二人とも食ってしまうぞ!」
ネコは二人を追いかけて、台所に飛び込んできました。
ところがいくら探しても、二人の姿は見えません。
「おかしいな? 確かにここへ逃げ込んだんだがなあ。
???まあ、いいさ。
ここには戸口が一つしかないんだから、そのうちに出て来るに決まっている」
こう言うと、ネコは戸口に座り込んで、いつまでも待っていました。
その頃、ツボの中ではお母さん鳥とひな鳥が、怖くて震えていました。
ところが少し立つと、ひな鳥は落ち着かなくなって、お母さん鳥の耳もとでささやきました。
「お母さん、くしゃみがしたい」
「がまんしなさい。くしゃみなんかしたら、わたしたちがこのツボの中にいる事が、ネコにわかってしまうじゃないの」
と、お母さん鳥は、いい聞かせました。
しばらくすると、ひな鳥がまた、お母さんの耳元でささやきました。
「一回きりでいいから、くしゃみをさせて」
「だめよ。ぜったいだめ」
また、しばらくたちました。
するとまたまた、ひな鳥がお母さんの耳もとでささやきました。
「ちいちゃなくしゃみを、一回きりでいいから」
「だめよ」
と、お母さん鳥は答えました。
しばらく、たちました。
ひな鳥は、またお母さんの耳もとでささやきました。
「ちっちゃなくしゃみを、一回の半分きりでいいから」
お母さん鳥は、めんどうくさくなって、
「いいわ」
と、うっかり、言ってしまいました。
するとひな鳥は、大きな大きなくしゃみをしました。
「ハックショーーン!」
それがものすごく大きなくしゃみだったので、ツボがくしゃみの勢いで二つに割れてしまったのです。
もちろん中からは、お母さん鳥とひな鳥が出て来ましたが、ネコはくしゃみの音にビックリして、あわてて逃げて行きました。
あんまりすごい音なので、カミナリが落ちたとでも思ったに違いありません。
こうしてお母さん鳥とひな鳥は、無事に台所から出て行きました。