むかしむかしの、夏の暑い日。
牧場(ぼくじょう)で働いている男が町に住む主人のところへミルクやチーズを運ぼうと、ロバをウマ小屋から引き出して支度をはじめました。
はじめにロバの背中に、クッションとなるワラをしきました。
ワラの上に木のくらを置き、くらの上に布をかけました。
さて今度は、荷物をつむ番です。
まずミルクを入れた大きなツボを四つ、ロバの右と左に二つずつ付けました。
それからヤギのチーズの固まりを八つ持ってきて、右と左に四つずつ付けました。
「やれやれ、これでつみおえた」
ところがその時、大変な事を思い出しました。
主人のおじょうさんとおぼっちゃんが、泊まりがけで遊びに来ていたのです。
この二人を、送って行かなくてはなりません。
男は主人の子どもたちを、くらの上に背中合わせで座らせました。
途中でけんかをされたら、困るからです。
これだけの事をすると、男はヘトヘトに疲れました。
ロバも、しんどそうな顔をしています。
その時、どこからともなく一匹のノミがやってきて、ピョーンと男のそでに飛び上がりました。
それからノミはロバに飛び移ってキョロキョロとあたりを見まわし、ロバの背中のやわらかなワラの間にもぐり込みました。
「しめ、しめ。いい日かげがあったぞ。ちょいと、昼寝でもするとしよう」
さて、男とロバは町へ出発しました。
太陽がジリジリと、焼けるような暑さです。
男は川から上がったように、汗ビッショリになりました。
ロバは、あんまり荷物が重いので、足がフラフラです。
ロバの上の子どもたちも、グッタリしていました。
ところがノミはロバの背中のやわらかいワラにもぐり込んで、まるでゆりかごにゆられているように良い気持で眠っていました。
ノミが目を覚ましたのは、男がやっと町の主人の家へたどりついた時でした。
ノミはワラからはい出してみて、ビックリしました。
「これはまた、すごい荷物だ! まるで山のようだ」
ノミは自分が、これだけの荷物を運んで来たような気がしてきました。
ノミは得意そうに、さけびました。
「おーい、みんな。このおれさまがかついできた荷物を見てくれ! ものすごい重さだぜ。どうだい。大した力持ちだろう」
ノミはウキウキして、男のそでに飛び移りました。
男は主人の子どもたちをおろしてから、荷物を次々とおろしました。
それからロバのくらをはずして、ロバの体をさすってやりました。
それを見たノミは、腹を立てて怒ります。
「なんてこった!
重い荷物をかついで来た、このおれさまの事はほっといて、ロバの奴ばっかりチヤホヤしていやがる。
ロバの奴、ろくな事も出来ないくせに、いい気になってるな。
ようし、こいつをやっつけてやれ」
ノミはピョーンとロバの鼻に飛び移って、チクリとかみついてやりました。
ビックリしたロバは暴れ出して、そばのミルクツボをひっくり返してしまいました。
それを見た男は、ロバの鼻を殴りつけました。
プチッ!
ロバの鼻にとまっていた力持ちのノミは叩きつぶされて、かげも形もなくなってしまいました。
出来もしないことでいばったりすると、こんな目に会いますよ。