むかしむかし、あるところに、アツムタイという男がいました。
アツムタイは、とても気前がいい人で、人に何かが欲しいとねだられれば、どんな物でもおしみなく人にあげてしまうのでした。
そのアツムタイのうわさを家来から聞いた王さまは、イライラしながら家来に言いつけました。
「わしはよく人に物をやるが、誰一人として、わしの事を気前がよいとは言ってくれん。もしその男が本当に気前がよいのなら、その男が持っている風のようにはやい名馬をわしにくれるはずだからもらってこい」
家来はさっそく、アツムタイのところへ行きました。
「遠いところから、よくおいでくださいました」
家来がアツムタイのところへ来たのはとても寒い雪の降る日だったので、アツムタイは馬小屋にいる世界一はやい名馬をなべにして家来をもてなしました。
次の朝、家来が王さまから用件を伝えると、アツムタイは泣きながら言いました。
「申し訳ございません。実はあなたさまをもてなす物がなかったので、昨日、その馬をごちそうしてしまいました。王さまのお望みをかなえてさしあげることは、出来なくなってしまいました」
家来はお城に帰ると、アツムタイの気前のよさを王さまに伝えました。
すると王さまは前よりもイライラして、とんでもない事を言いました。
「わしより気前のよい男がいるなんて、絶対に許さんぞ! アツムタイを殺してその首を持って来れば、ほうびをどっさりやると国中に伝えろ!」
しかしアツムタイのように気前のいい男を殺そうと思う者は、国中を探してもいませんでした。
いえ、たった一人、アツムタイを殺してほうびをもらおうとする男がいました。
その男は来る日も来る日も、アツムタイを探して回りました。
しかしどうしても、見つける事が出来ません。
ある日の事、男は見知らぬ人のテントに泊めてもらうことになりました。
テントの主人は旅の男をこころよく迎え入れて、おいしい食事まで用意してくれました。
そして寝るときは、たった一つしかない自分のふとんまで貸してくれたのです。
次の朝、旅の男は主人に言いました。
「わたしは王さまの命令で、アツムタイという男を殺す旅をしています。ですがアツムタイがどこにいるのか、さっぱりわかりません。どうしたらその男を探し出せるか、いい知恵(ちえ)はありませんか?」
「??????」
黙って聞いていた主人は、いきなり外に出て行きましたが、しばらくすると刀(かたな)を持って帰ってきました。
そして旅の男に刀をさし出して、こう言うのでした。
「お客さま。わたしがお探しのアツムタイでございます。あなたがわたしの首をほしいと言われるのなら、喜んで差し上げましょう。さあどうぞ、バッサリと切り落としてください」
旅の男は、ビックリしました。
まさかこの男が、探していたアツムタイだったとは。
しかし困っている自分を泊めてくれて、食事やふとんまで用意をしてくれた主人を、とても殺す気にはなれませんでした。
旅の男は王さまの命令をはたさず、お城に帰っていきました。
そして王さまに、アツムタイの事を報告(ほうこく)したのです。
すると王さまは、自分のやろうとしたことを深く反省して言いました。
「わしはアツムタイのように、自分の首を差し出す気にはとてもなれん。あの男こそ、本当に世界で一番気前のよい男だ」