むかしむかし、ある村に、貧乏なお百姓(ひゃくしょう)さんがいました。
「おお寒い! まきを探しに行こう」
お百姓さんはオノを持って森へ行き、一本の大木を見つけました。
「これは素晴らしい木だ! オノを当てると、コツコツといい音がする。これはぼだいじゅ(→おしゃかさまがさとりを開いたといわれるクワ科の常緑高木)だな」
オノを振り上げ、切ろうとすると、
「切らないで! 欲しい物は何でもあげるから」
と、ぼだいじゅが、人間の声で言ったのです。
「それじゃ、おれをほかのお百姓より金持ちにしてくれ」
「家へ帰ってごらん。望みはかなってるよ」
お百姓さんが帰ってみると新しい家にはウマがいて、小屋には食べ物が山ほどありました。
「すごいや! 何と、おかみさんまでいるぞ! ???けど、あの顔は気に入らないや。そうだ、ぼだいじゅのところへ行って話してみよう」
お百姓さんはオノを持って出かけ、ぼだいじゅの木をコンコンと叩きました。
「何が、欲しいんだね?」
「もっときれいなおかみさんにしておくれ」
「家へ帰ってごらんよ」
お百姓さんが帰ると、きれいなおかみさんが待っていました。
お百姓さんは大喜びしましたが、でもすぐに次の欲しい物が心に浮かびました。
「金持ちのお百姓にはなったが、村長になれたらもっといいなあ」
お百姓さんはオノを持って、出かけました。
「お百姓さん、今度は何が欲しいのかね?」
お百姓さんは、ぼだいじゅの木に頼みました。
「金持ちにはなったが、村長には頭があがらない。だから村長になってみたいんだよ」
「家へ帰ってごらん。望みはかなってるよ」
家に帰ると、一枚の紙が届きました。
《お前を村長にする》
お百姓さんは村長になったとたんに、もう次の欲が出て来ました。
「おれは、貴族(きぞく)になってみたいなあ」
お百姓さんはまた、森へ行きました。
「おやおや、またか。何が欲しいんだね?」
「偉い貴族になりたいなあ」
「家へ帰ってごらん。望みはかなうよ」
家に帰ると、王さまの使いが知らせを持って来ました。
《お前を、貴族にする》
貴族になると、すぐ次の欲が出ました。
「王さまになりたいもんだなあ」
お百姓さんは森へ出かけ、木を叩きました。
「???今度は、何が欲しいのかな?」
「王さまだ。何といっても、王さまは誰よりも偉いんだ。王さまにはなれないものかね?」
木は、大きな声で怒鳴りました。
「この欲張りめ! 金持ちの次は村長、村長の次は貴族、貴族の次は王さまだと! どうせ王さまの次は神さまだろう。これ以上望むと、お前は何もかもなくしてしまうぞ」
お百姓さんは、貴族でがまんをしました。