むかしむかし、やさしい若者が旅をしていました。
川に行くと、見た事もない美しい赤いさかながアミにかかっていました。
「かわいそうに」
若者はさかなを、川に逃がしてやりました。
するとさかなは、自分の背びれからトゲを一本抜いて若者にくれました。
「困った事があったら、これを出してよんでください。きっと恩返しに行きますから」
次に若者は、猟師(りょうし)に追われているシカにあいました。
若者がシカを木のほら穴にかくして猟師から助けてやると、シカはお礼に背中の毛を一本抜いて若者にくれました。
「困った事があったら、これを出してよんでください。きっと恩返しに行きますから」
しばらく行きとタカに追われたツルが、ヘナヘナと落ちてきました。
「この乱暴者め!」
若者がタカを追い払うと、ツルはお礼に背中の羽根を一本抜いてくれました。
「困った事があったら、これを出してよんでください。きっと恩返しに行きますから」
また少し行くと、犬に追われたキツネが飛び出してきました。
若者がキツネを上着の下にかくしてやると、助かったキツネは背中の毛を一本抜いてくれました。
「困った事があったら、これを出してよんでください。きっと恩返しに行きますから」
やがて若者は、大きなお城のある町にたどりつきました。
若者がお城の事をたずねると、町の人が言いました。
「お城には、とても美しいお姫さまが住んでいます。お姫さまとかくれんぼをして見つからずにすんだ人が、おむこさんになれるのです」
「それはおもしろい。ぼくもやってみよう」
お姫さまは本当に美しい人で、若者は一目で好きになりました。
「あなたと結婚したいのです」
若者が言うと、お姫さまは答えました。
「それなら、わたしに見つからないようにかくれなさい。でも失敗(しっぱい)したら、あなたは首をきられるのよ」
「かまいません。ただ、四回かくれてもいいですか?」
「ええ、いいわ。何度やっても、結果は同じですが」
若者はさっそくトゲを出して、さかなを呼びました。
話しを聞いたさかなは、若者を海の底にかくしてくれました。
ところがお姫さまは、どんな物でも見つける事が出来る魔法のカガミを使って、海の底にかくれている若者を見つけました。
「見つけたわ! 見つけたわ!」
魔法のカガミを通じて、お姫さまの声が若者の耳に届きました。
「よし、二回目だ」
若者はシカの毛を使ってシカを呼び出すと、七つの山をこえた遠くのほら穴に連れて行ってもらいました。
しかしお姫さまは魔法のカガミを使って、
「見つけたわ! 見つけたわ!」
と、言います。
「よし、三回目だ」
今度は助けたツルに頼んで、空の上の大きな雲(くも)の上に隠れました。
それでもお姫さまは、
「見つけたわ! 見つけたわ!」
と、若者を見つけてしまいます。
魔法のカガミを持っているお姫さまには、どうしてもかないません。
隠れるチャンスは、あと一回だけです。
キツネをよび出した若者は、青い顔で言いました。
「キツネくん、今度見つかったら、ぼくは首を切られてしまうんだ」
すると、頭の良いキツネは、
「大丈夫。わたしにまかせてください」
と、地面に長い長いトンネルをほりはじめました。
そのトンネルの行き先は、何とお姫さまのすわっているイスの下でした。
若者はそこで、じっと息をひそめました。
「さあ、今度もきっと見つけるわ」
お姫さまは、魔法のカガミをのぞきました。
ところが世界のはてにも、空のはてにも、海の底にも、若者の姿は見えません。
「おかしいわ、どうして見つからないの?!」
お姫さまは必死で探しますが、どこを探しても若者は見つかりません。
、お姫さまはとうとう、さけびました。
「見つからないわ! わたしの負けよ。どうか、出てきてちょうだい!」
「はい。ここにいますよ」
若者がお姫さまのイスの下から出てくると、お姫さまはうれしそうに言いました。
「まあ、あなたは何て、頭がいいんでしょう。すてきだわ。わたしと結婚してくださる?」
「はい、喜んで。お姫さま」
こうして若者は、お姫さまのおむこさんになったのです。