むかしむかし、あるところに、貧乏(びんぼう)なおじいさんとおばあさんがいました。
家にはもう、なにも食べる物がありません。
二人は森で、ドングリをひろって食べました。
すると、ドングリがひとつ、おばあさんの手からころがって、床のすきまから地面におちてしまいました。
しばらくしてドングリは芽(め)をだし、たちまち大きくなって、床をつきやぶるほどになりました。
そこでおじいさんは、床板をはずしてやりました。
するとこんどは、天井につっかえるほど、大きくなりました。
「かしの木よ、空にとどくほど大きくおなり」
おじいさんは、じゃまな天井をこわしてやりました。
かしの木は、ほんとうに空にとどくほど大きくなりました。
あまり大きくて、上のほうは雲(くも)にかくれて見えません。
「いったい、この木はどこまでのびているんだろう」
そう思ったおじいさんは、かしの木を、ドンドンドンドンのぼっていきました。
てっぺんまでのぼると、そこは雲の上でした。
みると目の前に、小さな家があります。
中には、一わのオンドリと、ひきうすが、ポツンとおいてあるだけです。
「こんなあき家にオンドリをおいておくなんて、かわいそうに。このひきうすだって、まだつかえるのに」
おじいさんはオンドリとひきうすを、だいじそうにかかえてもってかえりました。
「おばあさん、おみやげだよ」
おじいさんはオンドリをトリ小屋にいれ、ひきうすでドングリをひきはじめました。
するとふしぎなことに、ひきうすをまわすたびに、パンやまんじゅうが出てくるではありませんか。
おじいさんとおばあさんは大よろこびで、パンとまんじゅうを、おなかいっぱいにたべました。
このひきうすのうわさは、町にもつたわりました。
そして、このうわさを耳にしたよくばり商人(しょうにん)が、さっそく、おじいさんとおばあさんのところへやってきました。
「ねえ、おじいさん、おばあさん。そのひきうすを売ってくれないかね。お金はいくらでもだすから」
「とんでもない! お金を山のようにつまれても、これを売るわけにはいきません」
朝になりました。
ところがたいへんなことに、ひきうすがありません。
ゆうべ、おじいさんとおばあさんがねむっているすきに、商人がぬすんでしまったのです。
「命よりたいせつなひきうすがなくなってしまった。どうしよう?」
おじいさんとおばあさんはガッカリして、すわりこんでしまいました。
すると、うしろで声がしました。
「おじいさん、おばあさん、そんなにかなしまないでください。きっと、ぼくがとりかえしてきます」
見ると、オンドリでした。
「ドロボウ商人め、きっとぼくがひきうすをとりかえしてみせるぞ」
オンドリはいさましくさけぶと、とさかをピンと立てて、商人の家をめざしてとびだしていきました。
とちゅうで、キツネにあいました。
「オンドリさん、どこへいくの?」
「商人の家に、ひきうすをとりかえしにいくのさ」
「じゃ、ぼくもつれていってよ」
「いいとも。ぼくの羽のかげにかくれていきなよ」
オンドリは羽を大きくひろげて、キツネをかくして道をいそぎました。
つぎに、オオカミにあいました。
「おい、おい、オンドリくん、そんなにあわててどこへいくのさ」
「商人の家に、ひきうすをとりかえしにいくのさ」
「じゃ、ぼくもつれていっておくれよ」
「いいとも。ここにかくれていきなよ」
オンドリは、羽をひろげました。
またすこしいくと、こんどはクマにあいました。
クマもオンドリの羽のかげにかくれて、いっしょにいくことになりました。
商人の家につくと、オンドリは門の上にとびのって、大きな声でさけびました。
「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
商人は、おこってわめきました。
「あのオンドリをガチョウ小屋にぶちこんで、羽をむしらせてしまえ」
だけど、オンドリだってまけていません。
オンドリは、小さな声でいいました。
「キツネさん、ガチョウの羽をむしっておくれよ」
キツネはオンドリの羽のかげからとびだすと、ガチョウの羽をかたっぱしからむしりとって、森へにげていってしまいました。
オンドリはまた、門の上にとびのって、大きな声でさけびました。
「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
商人はこんどは、オンドリをウシにふみつぶさせようとしました。
ところが、オンドリの羽のかげからオオカミがとびだして、ウシ小屋じゅうのウシをやっつけて、森へにげていきました。
オンドリはまた、ひきうすをかえせ! とさけびました。
カンカンにおこった商人は、こんどはオンドリをウマ小屋へいれました。
ウマにけとばさせようと、考えたのです。
ところが、オンドリの羽のかげからクマがとびだして、ウマを一頭のこらずたおしてくれました。
オンドリは、また門の上にとびのってさけびました。
「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
「いまいましいオンドリめ、ころしてやるぞ!」
商人はオンドリをつかまえると、首をしめて、だんろの中にほうりこんでしまいました。
ところが、その晩のことです。
とつぜんだんろの中で、オンドリがさけびました。
「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
「あいつめ、まだ生きていたか!」
商人はオンドリにとびかかろうとして、じぶんでだんろの中にとびこんでしまい、大やけどをしました。
だんろから出たオンドリは、ひきうすをとりかえして、元気よく、おじいさんとおばあさんのところへかえっていきました。