むかしむかし、ロシアのある村に、アコーデオンをひくのがとてもうまい男がいました。
この男がアコーデオンをひきはじめると村人たちはみんな踊り出すので、村の祭りや婚礼(こんれい)にはなくてはならない存在(そんざい)でした。
ある日の事、この男が森を歩いていると、となり村の顔見知りの男が馬車(ばしゃ)に乗ってやって来ました。
男はアコーデオンひきの顔を見ると、うれしそうに言いました。
「ちょうど、いいところで出会った! うちの村で婚礼があるんで、お前をむかえに来たんだ」
男はそう言ってアコーデオンひきを馬車に乗せると、自分の村へ連れて行きました。
婚礼がある家に着くと、もうたくさんの客が集まっていて、花嫁が来るのを待っています。
しばらくして花嫁が到着すると、客たちの前に連れてこられました。
アコーデオンひきは花嫁の顔を見て、おやっ? と思いました。
「あれは、うちの村のアーニャじゃないか? 嫁入りをするなんて、聞いていなかったが。それにしても、どうしてあんなに首がかたむいているんだろう」
アコーデオンひきは変に思いましたが、すぐに婚礼がはじまったのでだまっていました。
そのうちに酒が配られて、男がアコーデオンをひきはじめると、いつものようににぎやかな歌と踊りが始まりました。
たてつづけに何曲かひいてくたびれたアコーデオンひきは、手の汗を目の前のカーテンで何気なくふこうとしました。
するとその瞬間(しゅんかん)に、目の前の物がパッと消えたのです。
気がつくとアコーデオンひきは、森の中の沼のほとりで一人ポツンと立っていました。
目の前には大きな切り株があって、その上に馬フンがいくつもならんでいます。
さっきまでここにはテーブルがあって、おいしそうなごちそうがいっぱいならんでいたのですが。
「これは、悪魔(あくま)どものしわざだ! 悪魔が、となり村の人たちに化けていたんだ!」
アコーデオンひきは転げるように、自分の村へ逃げ帰りました。
アコーデオンひきが家にもどると、奥さんが言いました。
「ねえあなた、アーニャって娘を知っているでしょう? あの子ったらかわいそうに、今日、納屋(なや)で首をつって死んだんだって!」
「!!!」
奥さんの話を聞いて、男は声も出ませんでした。
(やはりあの娘は、アーニャだったんだ。そして、悪魔の花よめにされたんだ)
むかしは、自分で自分の命をたった人は墓地(ぼち)には埋葬(まいそう)してもらえず、どこか人目につかないところにすてられたのでした。
そういう人は天国へ行けず、悪魔に連れて行かれます。
そして本当なら生きられたのこりの年月が終わるまで、悪魔のところで働かされるのです。
またアーニャのように若い娘は、悪魔の花嫁にされるそうです。