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探偵ガリレオ 解説
日期:2017-12-28 22:00  点击:672
 佐野史郎
 
 正統派のミステリーは、ほとんど読んだことがない。昔、かじったクリスティやドイルくらい。その後は、どちらかというとポーの系統に興味が行ってしまった僕が、どうして、東野圭吾さんの『探偵ガリレオ』の解説に登場することになったのか――。読者の方々も、不思議に思っているかもしれない。
 それは、何を隠そう、東野さんは、僕をイメージして『探偵ガリレオ』の主人公である天才物理学者・湯川学を書いたといういきさつがあるからである。
 東野さんによると、この作品は「以前からマニアックでいいから、科学を題材にしたミステリーを書きたいと思っていた。そのときは、話をなるたけオーソドックスなものに、純粋な探偵小説にしようと決めていた。映画『夢みるように眠りたい』で佐野さんが演じた探偵役が印象に残っていたので、佐野さんをイメージした探偵を書いてみようと思った。科学者というよりは、探偵としての佐野さんというイメージを持ったのが最初だった。もちろん、医者などの役も多くやられているので、理系というイメージもぴったりだったのだが」ということらしい。僕としては非常に光栄なことである。さっそく、興味津々で作品を読んでみた。
 実は、先ほど、「正統派のミステリーはほとんど読んだことがない」と言ったが、唯一、好きな作家にフランスのセバスチャン・ジャプリゾがいる。寡作なのだが、その徹底的に緻密な作風に惹かれ、二十歳くらいのころ、立て続けに読んで熱中した。この作品を読んでジャプリゾをちょっと思い出した。
 時系列の構成が面白い。また、あるときは犯人側から、あるときは刑事側からというように、描かれる視点が変わっていくところなども、ジャプリゾ的な部分かもしれない。その時系列や視点などは、小説を書いていく過程の中で、いったい、いつ考えるものなのか。最初に構成を考える時点で、決まっていることなのか、それとも、書いているうちに、自然と筆がそう動いていくのか、法則のようなものがあるのかどうか、東野さんに聞いてみたいところである。
 題材として描かれている奇怪な事件や現象なども、僕自身は興味深いのだが、この五章すべてに共通するのは、事件が起こるシーンが非常に映像的であるということ。特に、第一章の、若者の頭が燃えるシーンは強烈である。ぜひとも映像で見てみたいと思った。
 加えて、物語の中で印象的だったのは、草薙と湯川のコンビネーションである。やはリミステリーにとっては、仕掛けが命であり、その整合性のためにストーリーも展開していく。謎がきちんと解決されないと読者は納得しない。しかし、それだけだと、面白みに欠け、物語に厚みが出てこない。この作品では、草薙と湯川のやりとりが、そこを埋める重要な空気を作品に醸し出しているのである。
 そんな湯川の盟友・草薙の役なら、誰がいいだろう……と、いろいろ想像が膨らんでくる。やはり、僕をイメージして書かれたとなると、つい役者モードで読んでしまうのだ。読者モードと役者モード。これは、違う脳を使っているとしかいいようがないのである。
 自分の中に、湯川に近い理系的な部分があるかというと、実はあまり感じられない。そもそも佐野家は代々、医者の家系であり、理系のDNAがたくさん入っているはずなのだが、自分は根っからの文系人間だと思う。しかし、唯一、感じられる〝理系的〟な部分は、とことん整合性を求めるところだろうか。
 たとえば、現在、雑誌「ダ・ヴィンチ」で「ゴジラのいる島」という小説を連載中なのだが、取材は徹底的にやらないと気がすまない。気になる部分はとことん調べ尽くしたいと、ここでも整合性を求める性格が頭をもたげる。
 もちろん、役者においてもそうである。演じるときも、そんなのどうでもいいじゃないかと言われるようなことにこだわって、役の無意識を掘り起こす。そういう作業が好きなのである。意識的に話したり、意識して動いていることは高が知れていて、その人がどういう人間か、なぜ、そんなことをしたのかというのは、その人の無意識に現れるものだ。だから、シナリオの場合は、書いてあることの逆から演技を考え始め、書かれていないことを掘り起こす。それが俳優の作業なのである。
 そうすると、東野さんが意識して書かれているかどうかはわからないが、役者の目から見た、湯川のキーポイントが、随所にみえてくる。
 湯川の場合は、まず、そのトボケさ加減である。事件が解決したり、何かわかったことがあってもずっと言わないでいる、あの感じ。わかりやすく演じることは可能だが、逆に、あえてわかりやすさにこだわらず、演じてみたいものだ。それと、草薙との独特の距離感。あまり多くを語らないが、非常に強い友情を感じている様子が、読者側に伝わってきて、好感が持てる。演じ甲斐のあるところだ。
 湯川のキャラクターで、もう一つ重要なのは、ふざけんぼなところ。草薙が訪ねてくると、〝歓迎のノロシ〟を上げたり、電子レンジで炎を作ったりと忙しい。登場人物のキャラクターは往々にして作家の分身であることが多いというから、湯川のユーモア溢れる、ふざけんぼなところは、東野さんのキャラクターに由来するのかなと、しばし考えた。とすると、湯川が使っている、よく洗っていないコーヒーのマグカップも、東野さんの生活を反映したものなのだろうか、ぜひ訊ねてみたいと思うのだが。
 僕が今出演している番組で、「特命リサーチ200X」(日本テレビ系)という番組がある。常識では説明の難しい、奇妙な事件を科学的に捜査していくという、まさに、『探偵ガリレオ』と同じようなコンセプトの番組である。時期的には、この作品が初めて「オール讃物」に掲載されたのと、ほとんど同時に、番組も始まっているらしい。実際、同じようなことが全く別のところで、進行しており、奇しくも、その両方に僕が絡んでいたというのは、これこそまさに、奇妙な偶然である。湯川ならどう解決してくれるのだろうか。

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