見つけた〝相談相手″
たちまち、交差点は大さわぎになった。近所の人たちが事故現場へかけつけてゆく。パトロール・カーや救急車が、サイレンを鳴らしてやってくる。やじうまがやってくる……。ふたりは、しばらくぼんやりしていた。
吾朗は、あきれた顔で和子を見ていった。
「君といっしょにいると、おかしな事件ばかり起こるね」
「なにいってるの!」
和子は少し大きな声を出して吾朗の顔をにらみつけた。かの女のけんまくに、吾朗は少したじたじ[#「たじたじ」に傍点]としておかしな顔をした。
「ど、どうしたんだい? なにをおこってるんだい? いまの事件を見て、ヒステリーを起こしたのか?」
「そんなんじゃないわ!」
和子と吾朗は、自分たちがとうに遅刻していることに気がつき、あわてて歩きだした。学校へいそぐ道すがら、和子は吾朗にわけを話した。そして最後にいった。
「だから、わたしがあそこであなたをとめなかったら、わたしもあなたも……」
吾朗は、びくっとからだをふるあせた。
「あの暴走トラックにひかれていたというのかい?」
「そうよ」
ふたりが教室へはいっていくと授業はもうはじまっていた。
教壇の上の福島《ふくしま》先生は、ふたりを見てちょっといじわるそうな顔つきになり、ニヤリと笑っていった。
「ほう、アベックで遅刻かい?」
みんながどっと笑った。
だが福島先生は、ただごとでないふたりの青ざめた顔に気がついたらしく、それ以上ひやかすのをやめ、授業をつづけた。
席についたものの、吾朗も和子もまだ胸がどきどきしていて、授業もうわの空だった。
――そうだ。福島先生に相談してみよう。
黒板の字を頭に入れようと努力してにらみつけながら、和子はそう思った。
――福島先生なら、一年のときから教えてもらっているし、親切だし、それにだいいち理科の先生なのだから、わたしのこのきみょうな能力を科学的に考えてくださるだろう。そうだ、吾朗君や深町君にも、いっしょに相談に加わってもらうことにしよう――。
その日、授業が全部終わるまでには、和子、深町一夫、浅倉吾朗の三人のあいだでは、福島先生にどのように話しだすかがだいたいきまっていた。休憩時間にとぎれとぎれに相談しあったのである。
ひとつ授業が終わるたびに廊下に集まって、ひそひそと話しあう三人を、神谷真理子や、ほかの級友たちは、いぶかしげにじろじろ見つめた。だが三人とも、そんなことは気にしなかった。
放課後、三人はおそるおそる職員室のドアをあけた。
ほかの先生が話を横で聞いておもしろがり、じようだんをとばしたりまぜっかえしたりすると、落ちついて相談することができない。だが、福島先生の席は、さいわいなことにへやのいちばんすみっこだから相談しやすい。三人は、福島先生を取りかこむようにして立ち、深町一夫が声をかけた。
「福島先生」
科学雑誌を読みふけっていた先生は、びっくりしたように頭をあげた。
「おう、なんだ、きみたちか」
先生は、和子と吾朗の顔を見て、おとくいの、あのニヤニヤ笑いをしてみせた。
「けさの遅刻のことで、わざわざあやまりにきたのかね」
「遅刻のことにも関係はあるんですけど……」
と、和子はいった。
「……でも、ちょっと、だいじなご相談があって……」
「そうかい、まあ、かけたまえ」
福島先生は気さくなようすで、あたりのイスを自分のまわりに集め、三人をかけさせた。それからタバコに火をつけた。
「なんだね? だいじな相談って……」
うちあわせしてあったとおり、いちばん話し方のうまい深町一夫が、少しからだを前にのりだすようにして、ゆっくりと話しはじめた。
「先生、これからお話しすることを最後まで笑わないで聞いてほしいんです。というのは、ふつうの人ならこの話を聞いたら、ばかばかしい夢か空想のように思って、笑いとばしてしまうと思うからなんです。ぼくたちは、この話をどの先生にしようかと、だいぶまよいました。そしてやっぱり福島先生にご相談することにしたんです」
「ふうん」
福島先生の顔から、笑いが消えた。
「だいぶ、こみいった話らしいね」
「そうなんです」
「ぼくを信用してくれたというわけなんだね。よろしい、どんな話だろうと笑わないで最後まで聞くことにしよう」
「ありがとうございます、先生」
一夫は、ちょっとはっとしたようすだった。――しかし――と、和子は思った。――これから話すのが、たいへんだわ。なんとかして福島先生に信じてもらわないと……。
「じっは、この芳山君のことなんです……」
深町一夫は、落ちついたしっかりした声で話しはじめた。