日语学习网
ラッパの音
日期:2017-12-30 16:29  点击:560
 ある日の夕方。
 エフ博士の家にお客がたずねてきて、こう話しかけた。
「このところ、ご旅行だったようですが、どちらへお出かけでしたか」
 博士はうなずいて答えた。
「ああ、南方の奥地へ探検にいってきたよ。ジャングルを抜けたり、山を越えたり、なかなかおもしろい旅だった」
「大がかりな探検隊を引きつれての旅だったのでしょうね」
「いや、わたしと案内人の二人だけだ」
 それを聞いて、お客は変な顔をした。
「そんなことは、信じられません。きっと、恐ろしい動物がたくさんいたはずです」
「ああ、いたとも。しかし、そんなのは追い払えばいい」
「追い払うには、たくさんの弾丸や銃がいるでしょう。それを運ぶだけでも、二人ではまにあわないはずです」
「いや、銃なんかは使わない」
「いったい、どんな方法なのでしょう」
 と、お客は知りたがって身を乗り出した。エフ博士は立ちあがり、となりのへやから細長い品を持ってきて見せた。
「これだよ。わたしの発明したラッパだ」
 そういわれてみるとラッパだが、普通のラッパのように簡単なものではない。先のほうには小型の電灯がついているし、横には望遠鏡のような形のものがついている。そのほか、複雑な電気の部品らしきものが、たくさんついていた。お客はふしぎそうに聞いた。
「これが、どんな働きをするのですか」
「いつだったか、鳥を呼ぶフエの話を読んだ。それにヒントをえて、その逆のものを作ったのだ。追っ払うフエというわけだ。もちろん鳥だけでなく、あらゆる動物にききめがある。ここについているレンズが相手を見わけ、その最もきらいな音を自動的に出す。つまり、このラッパを相手にむけて吹くと、たちまち逃げてゆく。電灯がついているから、夜でも使える」
「なるほど。銃とちがって、むやみに動物を殺さなくてすみますね。しかし、本当にききめがあるのでしょうね」
 お客に質問され、博士はちょうど庭先を歩いていたネコをみつけ、それにむけてラッパを吹いた。ラッパは犬のほえる音を出し、それを耳にしたネコは、急いで逃げていった。
「この通り。ネズミにむければネコの声、小鳥にむければタカの羽ばたきの音、といったぐあいだ」
「では、こわいものなしの旅でしたね」
「ああ、しかし、こわい目には、旅から帰ってからあったよ。ある夜、物音で目がさめてみると、となりのへやに泥棒が入っていた。叫んではあぶないし、電話に近よることもできない。ちかごろの世の中は、ジャングルよりぶっそうだ」
「で、どうなさいました」
「思いきって、泥棒にむけてラッパを吹いてみた。すると、あわてて逃げていった」
「どんな音が出たのです」
「パトロール・カーのサイレンの音だ」
 お客は、ますます感心した。
「すごい働きですね。では、ひとつ、それをわたしにむけて吹いてごらんになりませんか。わたしは、絶対に驚かないつもりです」
「そうむやみには使えないよ」
 と博士は首を振り、ラッパをしまうために、となりのへやへと歩いていった。お客は博士の戻るのを待っていたが、時計が鳴って十時を告げるのを聞き、博士に言った。
「おや、もう十時ですね。わたしの時計は、故障していたようだ。そろそろ失礼しましょう」
 そして、あいさつをして帰っていった。それを見送りながら、エフ博士は笑ってつぶやいた。
「ラッパが出した音とは気がつかず、帰っていったぞ。お客がなかなか帰らないと、研究のじゃまになって困ってしまう」

分享到:

顶部
11/24 20:33