フロル星人たちの乗った一台の宇宙船は、星々の旅をつづける途中、ちょっと地球へも立ち寄った。しかし、人類と会うことはできなかった。なぜなら、人類が出現するよりずっと昔のことだったのだ。
フロル星人たちは宇宙船を着陸させ、ひと通りの調査をしてから、こんな意味のことを話しあった。
「どうやら、わたしたちのやってくるのが、早すぎたようですね。この星には、まだ、文明らしきものはない。最も知能のある生物といったら、サルぐらいのものなのです。もっと進化したものがあらわれるには、しばらく年月がかかります」
「そうか。それは残念だな。文明をもたらそうと思って立ち寄ったのに。しかし、このまま引きあげるのも心残りだ」
「どうしましょうか」
「おみやげを残して帰るとしよう」
フロル星人たちは、その作業にとりかかった。金属製の大きなタマゴ型の容器を作り、そのなかにいろいろのものを入れたのだ。
簡単に星から星へと飛びまわれる、宇宙船の設計図。あらゆる病気をなおし、若がえることのできる薬の作り方。みなが平和に暮らすには、どうしたらいいかを書いた本。さらに、文字が通じないといけないので、絵入りの辞書をも加えた。
「作業は終りました。将来、住民たちがこれを発見したら、どんなに喜ぶことでしょう」
「ああ、もちろんだとも」
「しかし、早くあけすぎて、価値のある物とも知らずに捨ててしまうことはないでしょうか」
「これは丈夫な金属でできている。これをあけられるぐらいに文明が進んでいれば、書いてあることを理解できるはずだ」
「そうですね。ところで、これをどこに残しましょう」
「海岸ちかくでは、津波にさらわれて海の底に沈んでしまう。山の上では、噴火したりするといけない。それらの心配のない、なるべく乾燥した場所がいいだろう」
フロル星人たちは、海からも山からもはなれた砂漠のひろがっている地方を選び、そこに置いて飛びたっていた。
砂の上に残された大きな銀色のタマゴは、昼間は太陽を反射して強く光り、夜には月や星の光を受けて静かに輝いていた。あけられる時を待ちながら。
長い長い年月がたっていった。地球の動物たちも少しずつ進化し、サルのなかまのなかから道具や火を使う種族、つまり人類があらわれてきた。
なかには、これを見つけた者があったかもしれない。だが、気味わるがって近よろうとはしなかったろうし、近づいたところで、正体を知ることはできなかったにちがいない。
銀色のタマゴはずっと待ちつづけていた。砂漠地方なので、めったに雨は降らなかった。もっとも、雨でぬれてもさびることのない金属でできていた。
時どき強い風が吹いた。風は砂を飛ばし、タマゴを埋めたりもした。しかし、埋めっぱなしでもなかった。べつな風によって、地上にあらわれることもある。これが何度となく、くりかえされていたのだった。
また、長い長い年月が過ぎていった。人間たちはしだいに数がふえ、道具や品物も作り、文明も高くなってきた。
そして、ついに金属性のタマゴの割れる日が来た。しかし、砂のなかから発見され、喜びの声とともに開かれたのではなかった。下にそんなものが埋まっているとは少しも気づかず、その砂漠で原爆実験がおこなわれたのだ。
その爆発はすごかった。容器のそとがわの金属ばかりでなく、なかにつめてあったものまで、すべてをこなごなにし、あとかたもなく焼きつくしてしまったのだ。