エヌ博士の研究所は、岩の多い海岸のそばにあった。窓からは、白くくだける波を見ることができる。また、遠い水平線をゆく船をながめることもできる。空気がよく、静かで、夏は涼しくていい。
ある日、お金持ちのアール氏がたずねてきて、あいさつした。
「近くまでドライブに来たついでに、ちょっとお寄りしました」
「どうぞ、どうぞ。ごゆっくりと」
とエヌ博士は迎え、アール氏は聞いた。
「このごろは、どんな研究をなさっておいでなのですか」
「お目にかけましょう。これです。やっとできあがりました」
エヌ博士は、ガラス製の容器を指さした。海水がみたされてあり、そのなかで海草が育っていた。輝くような金色をした海草だ。それがゆらゆらとゆれている光景は、じつに美しかった。アール氏は感心した。
「きれいなものですね。まるで、おとぎの国にでもいるようだ。どうやって、色をぬったのですか」
「いや、色をぬったのでも、メッキをしたのでもありません。これは、金でできている海草なのですよ」
「まさか。そんなもの、あるわけがないでしょう」
と、ふしぎがるアール氏に、エヌ博士は説明した。
「草や木は地面のなかから養分をとり入れ、クキや葉など、自分のからだを作ります。それと同じことですよ。この海草は海水中に含まれている金をとり入れ、からだを作るのです。長いあいだかかって品種を改良し、なんとか完成しました」
「海水のなかに金が含まれているということは、わたしも聞いたことがある。しかし、それを取り出すのは、大変な手間だという話だったが……」
「機械でやったのでは、費用がかかって、ひきあいません。しかし、この海草はこの通りやってくれるのです」
「では、これを使えば、簡単に金がとれるわけですね」
「ええ。焼いて、よぶんな灰を除けば、金が残ります」
アール氏は目を丸くして見つめていたが、がまんできなくなって言った。
「すごい発明だ。どうでしょう。ぜひ、これをわたしにゆずって下さい」
「しかし……」
「お願いしますよ。お金なら、いくらでも払いますから」
アール氏の熱心さに負けて、ついにエヌ博士は承知した。
「いいでしょう。お売りしましょう」
「それは、ありがたい。さっそく、これをふやして、海の底で育てることにしよう。金のとれる畑ができるわけだ」
「そうです。大いにふやして下さい」
と、エヌ博士は育て方を書いた説明書を渡した。アール氏は、それを受取って言った。
「もちろん、そうするとも。しかし、あなたは欲のない人ですね」
「わたしは早く、つぎの研究をしたいのです」
「わたしは、お金をもうけるほうが好きだ。これで、さらにお金持ちになれる」
アール氏は大喜びだった。お金を払い、金色の海草を持って帰っていった。それを見送りながら、エヌ博士のほうも喜んでいた。
「金色の海草が売れ、おかげで、つぎの研究をする費用ができた。さっそく、それにとりかかろう。こんどは、金のウロコを持つ魚を作りあげよう。海底でふえた金の海草を食べて育つ魚。そして、すばしこく泳ぎ、大きくなったら戻ってくるような性質の魚だ。海のミツバチとでも呼ぶべきものだ。このほうが、もっとすばらしいではないか」