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スピード時代
日期:2017-12-30 16:41  点击:433
 天気のいい休日。お金持ちのアール氏は、庭で草花の手入れをしていた。すると、かきね越しに声をかけてきた男があった。
「草花がお好きのようですね」
「ええ、好きですよ」
 とアール氏が答えると、男は言った。
「じつは、ちょっと、お見せしたいものがあります」
「なんですか。園芸用品の売り込みですか」
「もっといいものです。この粉ですよ。タネをまいてから、この粉をとかした水をかけてやると、すばらしい早さで育つのです」
 男は門をまわって庭に入ってきて、ビンに入った白い粉を見せた。アール氏は笑った。
「まるで、花さかじいさんのような話ですね。とても信じられない」
「おうたがいでしたら、いま、ここでごらんに入れましょう。タネをまきますよ。これはスイカ、これはイチゴ、これはトマトです」
「それなら、ついでにこれもまいてみよう。アサガオのタネだ」
「いいですとも」
 男はこう言いながら、シャベルを借りて地面にタネを埋めた。それから、ビンの粉を水にとかし、ジョウロでかけてやった。アール氏は、それをながめてつぶやいた。
「ばかばかしいように思えてならないな」
「まあ、少しお待ち下さい」
「少しといっても、一週間ぐらいはかかるのだろう」
「とんでもありません。ほら」
 と男の指さした場所を見て、アール氏は目を丸くした。もう芽が出はじめている。
「これは驚いた。手品じゃないだろうな」
「タネもしかけもありません、と申しあげたいところですが、さっきのタネが育ったものです。さわってごらん下さい」
 手でさわってみると、たしかに本物だった。見ているあいだに、芽はどんどん成長してゆく。
「ふしぎとしか言いようがないな」
「しかけは、粉のほうです。成長を早めるこの薬を完成するのに、わたしは大変な苦心を重ねました。しかし、効果はごらんの通り、すばらしいスピードアップでしょう」
 タネをまいてから、まだ三時間ぐらいしかたたないのに、花が咲き、実がなりはじめていた。男は実をもいでさし出した。
「めしあがってごらんなさい」
 アール氏は、こわごわ口に入れた。どれもいい味だった。
「うむ。悪くない。となると、便利このうえない大発明だ。これを使えば毎日、とりたてで新鮮なくだものが食べられることになるな」
「そういうことになります。たくさん、めしあがってみて下さい」
 アール氏はつぎつぎに咲くアサガオの花をながめながらスイカ、イチゴ、トマトを口に運んだ。
「やれやれ、おなかが一杯になってしまった。ところで、この発明をわたしに売ってくれないか。この薬を大量生産すれば、人びとは喜び、わたしももうかる」
「じつは、わたしもそれをお願いにきたのです。この研究のため、たくさんの借金を作ってしまいました」
 話はまとまり、アール氏はお金を払った。男は薬と、その製法を書いた書類を渡し、お礼を言いながら帰っていった。
 アール氏は家に入り、大喜びだった。
「さあ、いそがしくなるぞ。この薬をどんどん作って、売らなければならない」
 だが、やがて首をかしげた。さっきあれだけスイカなどを食べたのに、もうおなかがすいているのだ。
「これは、早まったことをしたようだ。この方法で育てたくだものは、おなかに入ってからも、スピードはおとろえないらしいぞ」
 窓から庭を見ると、アサガオをはじめ、もうみんなすっかり枯れてしまっていた。

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